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【スポーツ×お金】第4回 スポーツファイナンスの第1人者に聞くスポーツとお金について①

2018 3/2 18:00藤本倫史
インタビュー,永田靖,SPAIA
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── 日本のスポーツ×お金の関係について、現状をどのようにお考えですか?

 スポーツビジネスとしての構造が、まだまだ確立されていないと思います。
 例えば、プロ野球の場合、企業がスポンサーをするとマスメディアが取り上げてくれます。
 しかし、JリーグやBリーグはその頻度が少ないです。そうなると広告の費用対効果が低いことになります。低いということはスポンサーをしてもメリットがないということになります。
 そのような単純な構図になると、他のスポーツ球団は苦しいです。
 そもそも、日本で「スポーツでビジネスを行うこと」の認知度が低いところに原因があると思います。この原因の根底は、日本人にはスポーツ=体育というマインドがあり、企業もスポーツにお金を出すことに対して、懐疑的に思っています。つまり、お金を出す効果や意義を見出していない状況にあります。
 片やスポーツ球団もお金をどこにどのような使い方をしているのかを「透明化」していない部分にも問題があると思っています。
 JリーグやBリーグは収支報告書を出していますが、詳細には公表していません。
 もっと問題なのがプロ野球で、全く出していません。

── そのような問題の中、スポーツを本格的に産業化していくためには、どのようなことをしていかなければならないでしょうか?

 私は人材育成だと思います。この人材育成のキーワードで最も重要なのは「経営がわかる人材」だと思います。
 現在、この「経営がわかる人材」が各クラブにいるかというと、残念ながらあまりいません。今は「スポーツが好き」、「現場で選手として働いていた人」、「親会社からの出向」のような方々が多く勤めています。
 その人たちにマネジメント、マーケティング、ファイナンスの話をしてもなかなか理解できません。この3分野が全く分からないことは、経営上あまり良くない状況にあると思います。
 私としては、人材が整って、ようやくスポーツを産業化する準備ができると思いますし、それができないと土台から崩れてしまうと思います。
 では、そのような人をどこから連れてきて、雇えばいいじゃないかと思うかもしれませんが、なかなか上手くいきません。一見、華やかな世界ですが、ギャップがあり、働く環境や条件も整備しないと行けないのが現状です。
 

インタビュー,永田靖,SPAIA

ⒸSPAIA

── スポーツビジネスの現場は厳しい状況にあると思います。選手をカットするのか、経営のコストをカットするのか悩ましいところがありますが、打開策はあるのでしょうか?

 私は経営のわかる人材をクラブ単体ではなく、「共有する」考え方もあるのではないかと考えます。例えば、広島だとサンフレッチェとドラゴンフライズがスタッフを共有するイメージです。いわゆるバックオフィスの機能、総務、人事、経理などは共有することは可能ではないでしょうか。
 これは財政の苦しいクラブ同士のことを想定して言っていますが、少ない経営資源で優秀な人材を雇うことはできませんし、効率的に経営を行っていく上では、工夫が必要です。
 各クラブが重複する部門を統合し、その浮いた資源で経営のわかる人材や選手を獲得すれば、ゲームのクオリティーを落とさずにファンの人たちも試合会場に来てくれると思います。私はこのようなアイディアを球団の方に提案すると、「シーズンの時期が違うから」など言われます。
 しかし、違う時期だから共有できる部分があると思いますし、これからはスポーツもAIの時代が来ます。
バックオフィスの部分もそのような最新のテクノロジーを使えば、より効率的に行えますし、有効に経営資源を活用することを考えないといけない時代に入ってきています。

── その形を作っていくためには、スポーツに投資する意義を変えていかなければならないのでしょうか?

 そうですね。先ほども述べましたが、内も外もお金をどこにどのように使ったかを透明化するべきです。
 内部には経営の方向性をしっかりと示す、外にはスポンサーやファンに対して、私たちはここを強化していることを示すことによって効果を見える化をすることで、お金を投資しやすくしてもらうことが必要だと思います。
 そうしないと投資する額が減少するばかりです。また、スポンサーをする企業に対して、広告効果に加えて、CSR(企業の社会的責任)の一環だということも浸透させるべきです。
 まだまだ、産業として未熟な部分がある中で、スポーツに投資しても効果がないと思われてはいけません。球団に投資をすることで、スポーツや地域振興にも寄与していることをリーグや球団は積極的に動き、外に発信しなければならないでしょう。

── 球団はゲームという商品をもう一度、考えなければなりませんね。

 スポーツ球団はゲームをファンに対して、「感動する経験や体験」という付加価値をつけて商品にしているわけです。ゲームのクオリティーは試合内容だけでなく、それに付随するスタジアムや飲食、グッズなどをふまえて、「付加価値」として提供していくことがスポーツビジネスの本質です。
 この付加価値をファンに対して発信し、顧客のニーズを知ることが必要なのですが、ここも難しい部分です。モノとして無いわけですし、数値化することも難しいです。
 昔は簡単でした。例えば、プロ野球は視聴率がブランドでした。プロ野球は視聴率が高いことを換算して商品化してきました。スタジアムで付加価値を付けなくても良かったわけですし、顧客のニーズを知る必要もなく、ゲームだけを行っておけばよかった。
 私はこの付加価値をより高めて提供していくためには、球団独自でCRM(データで顧客を分析するシステム)の活用を推進していくことが必要だと思っています。

 次回は、このような課題と新しいスポーツビジネスをもとに、スポーツビジネスの未来について伺う。

 

《インタビュイープロフィール》 永田 靖(ながた・やすし) 広島経済大学 経済学部スポーツ経営学科 教授。広島市生まれ。大学卒業後,現:(株)ソフトバンクテレコムにて経理システムの開発、国際収支決済に従事。退社後大学院へ進学し、修士(経済学)、修士(国際経営学・MBA)取得後、(株)富士通総研にて自治体等の業務改革を担当。広島に戻り、税理士登録。さらに、大学院へ戻り、博士(マネジメント)を取得。専門は経営戦略、財務および会計、スポーツファイナンス。

《インタビュアープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 助教。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。