マネジメントとは
前回は、ゼネラルマネージャーの現状と今後について述べた。現在、急成長を遂げているテクノロジーは球界にも大きな影響を与えており、AIやデータが支配する時代がすぐそこに迫っているように感じる。ただ、私はスポーツ組織を成功させるには目見えない力「マネジメント」が経営者や管理者にとって不可欠なものだと考える。
マネジメントの定義に関しては、研究者の世界で色々議論されている。私は大学院時代、スポーツ総合研究所主催の立命館大学スポーツマネジメントスクールに通っていた。そこで主催者の故広瀬一郎先生に、「マネジメントは成果によって定義される」と叩き込まれた。この言葉はマネジメントの大家、P.F.ドラッカー氏の定義をもとにしている。現在、私が大学で講義をするときにも大切にしている言葉である。
つまり、プロ野球球団の経営で言えば、球団が成果をあげるための必要な方法を考え、成果達成へ全体適合を目指す論理(ロジック)である。ゆえに、この論理は各球団によって違い、それぞれの球団が成果を定義する必要がある。
第1回でも書いたが、ビジネスの土台は「お金」を使う、稼ぐ、回すである。その基本を守り、ヤンキースや巨人はお客さんを集め、勝ってきた。しかし、お金だけで強くなれる時代は終わり、勝利の根拠を示す数字、データ分析の時代になってきた。データを読み、分析し、選手を獲得することで、どの球団でもワールドシリーズチャンピオンや日本シリーズチャンピオンに近づくことができる。また、競技面だけでなく、経営の観点から言っても、お客さんを集め、スタジアムを満員にし、稼ぐこともできる。
だが、なかなか上手くいかないところが、この世界の面白いところであり、厳しい部分でもある。
オールドスクールの時代はもう終わったのか?
2012年に日本で公開された「人生の特等席」というクリント・イーストウッド主演の映画がある。内容としては、イーストウッド演じるメジャーリーグのスカウトが、データ重視の経営陣にお払い箱にされそうになるが、長年、培ってきた野球眼を駆使して、仲の悪かった娘と協力。有望な新人選手を獲得し、一発逆転を目指すヒューマンドラマである。まさに現在のスポーツビジネス界の状況を表現しており、新旧や光と影について考えさせられる映画である。(ちなみにこの映画の監督はイーストウッドの後継者と言われるロバート・ロレンツである)
このような現場での経験や勘などを駆使して、仕事を行っていくタイプは、オールドスクール型と言われる。メジャーリーグでは近年、セイバーメトリックスなどを駆使するデータ型のGMや経営幹部が増えている。それに伴って職員もデータに精通した人材が増えており、オールドスクール型の人材は大量解雇という光景は珍しくなくなっている。
そのような光景を見ると、オールドスクール型の人材はお払い箱なのかと感じる。しかし、メジャーリーグの球団でオールドスクール型が成果を出している事例もある。それが、サンフランシスコ・ジャイアンツのブライアン・セイビアン強化部門副社長である。
ジャイアンツは2010、12、14年と3度ワールドシリーズチャピオンになっており、2000年代で最も成果を出している球団である。この編成責任者がセイビアンである。彼はニューヨーク・ヤンキースのスカウトとしてメジャーリーグのキャリアをはじめ、デレク・ジーターやマリアーノ・リベラの獲得に携わった。その実績を買われ、1996年にジャイアンツのGMとして招聘される。そこから20年以上もジャイアンツの編成責任者であり、オールドスクール型の武器である自分の目と足で選手を獲得し、球団を運営してきた。選手構成も経験豊富なベテラン選手を多く起用し、名将ブルース・ボウチー監督と組み、玄人好みのチームを作り上げ、成果を挙げた。
役割分担の重要性
なぜ、このような成果をあげることができたのかと分析すると、「役割分担」をしっかり行ったからではないかと考えられる。加えて、彼がこのデータ時代に全くセイバーメトリクスを利用していないかと言うとそうではない。自分は得意分野であるアマチュアや海外選手の獲得に力を入れ、トレードやデータ分析を右腕であるボビー・エバンスなどに任せた(ちなみにボビー・エバンスは2015年からGMに就任)。しっかりと役割分担し、自分のやり方に頑なにこだわるのではなく、バランスをとり、時代の変化を読んだのである。
日本でも、セリーグ2連覇を果たした広島東洋カープのスカウティングもオールドスクール型である。メディアでも注目を集めているスカウト統括部長苑田聡彦氏はまさに現場重視で、惚れた選手にとことん通い詰め、他球団が上位指名を躊躇する黒田博樹、丸佳浩、鈴木誠也などを獲得してきた。
このようにオールドスクール型を全否定することは得策ではなく、長年、蓄積されてきた経験も上手く活用することが必要ではないか。これはどのビジネスにも言える。データがもてはやされる時代ではあるが、あまりにも偏りすぎてはいけない。それらは若手の編成責任者も気づき始めているのではないか。
次回は、データ型偏重による歪みと若手GMの変化について述べていきたい。
《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 助教。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。