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【スポーツ×お金】第1回 ダルビッシュ有、大谷翔平、柳田悠岐、丸 佳浩・・・プロ野球選手の年俸分析③

2018 1/26 18:00藤本倫史
野球ボール,お金
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独自路線を進む広島東洋カープ

 前回お話ししたホークスのように、資金力のある球団ばかりではない。むしろ、資金力のない球団のほうが多い。しかし、独自の評価方法で躍進をしている球団がある。それがセリーグを連覇した広島東洋カープである。カープは90年代、FA制度で川口和久、江藤智、金本知憲などが移籍し、チームが弱体化した。また、逆指名制度で、有力な新人選手も獲得できなかった。厳しい時代が続いたが、球界再編問題以降に制度が見直される中、球団も動いた。

 職場環境の充実と選手評価の見直しである。職場環境の充実はマツダスタジアムの建設である。以前、本拠地としていた旧広島市民球場は2000年代の前半に老朽化し、選手には非常に評判が良くなかった。ベンチにも冷房環境がなく、他球団の選手から扇風機が寄贈されたほど、劣悪な職場環境であった。
 そこで、球団は新球場を建設するために、市民やファン、地元経済界とともに2009年にマツダスタジアムを完成させた。

 現在、マツダスタジアムはボールパークとしてファンや観戦者にとっていい球場だと、取り上げられることが多い。だが、それだけでなく、選手に非常にいい球場になっている。球場内部にはトレーニング施設、ブルペン、リハビリ施設など様々な最新鋭の施設が整っている。また、球場の芝は天然芝で膝への負担が少なく、外野のフェンスにも選手のオーダーにそったラバーが設置されている。そして、球場近くに1軍の寮と2015年にはスタジアムに隣接する室内練習場も完成させ、選手にとって最高の環境が整っている。
 このような環境を整える中で、マツダスタジアム完成後、FAで大竹寛と木村昇吾しか他球団に移籍していない。(ポスティングシステムで2015年オフに前田健太がドジャースに移籍している)

柳田と7000万円の差があるのに、なぜ保留しないのか?

 昨年、シーズンオフの年俸交渉も見ているとセリーグMVPの丸佳浩は7000万円アップの2億1000万円で更改している。これを柳田と単純比較すると2億1500万円の差がある(しかも、丸は今シーズン国内FAを取得する予定である)。
 丸は昨シーズン、打率.308、23本塁打、92打点と柳田とそん色のない成績を残している。さらにメジャーリーグで現在、選手評価に使われているセイバーメトリクスの観点からみてもOPS(出塁率+長打率).903、守備もゴールでグラブ賞を5年連続獲得し、総合指標で用いられるWAR(Wins Above Replacement)の評価も高い。しかも2013年5月から昨シーズンまで連続試合出場を続けており、耐久性にも優れている選手である。

 普通ならば、契約を保留してもよさそうだが、カープの選手評価は非常に細かく算定されている。目につきやすい打率、本塁打などを見るだけではない。例えば打点の面でも、点差が広がっている中でのソロホームランと接戦時の犠牲フライでは質が違う。また、満塁時の得点圏打率や進塁打、さらにはベンチのリーダーシップの面なども考慮し、算出をしている。ゆえに金額の根拠が示されており、他球団と比較しても意味がない。また、選手も額面だけの数字だけでなく、プレーの質の部分も細かくみてもらっていると思えれば、納得しやすいのではないか。

 また、球団フロントとチームのビジョンをしっかりと共有しており、人事評価がわかりやすくなっている。(逆にここがぶれている球団は保留者が出ているのではないか)
 現に今オフの保留者はゼロであり、過去5年を見ても、保留者はゼロである。(私見であるが、チェック項目が多く、年俸は上がりにくいが、極端に下がりにくい評価システムをカープは導入しているのでないかと考える。)
 さらに契約交渉を行う鈴木清明球団本部長の存在も大きい。丸の契約交渉でも「君のおかげでハワイに行けた」など最大限の賛辞を送っている。鈴木球団本部長は黒田博樹氏をカープに復帰させた立役者でもある。黒田氏がメジャーリーグへ移籍した後も粘り強く交渉を続けた。資金力のない中で、どのようにフォローアップし交渉するか、これらは一般企業でも同じではないか。

 プロ野球選手は個人の数字がはっきり出る世界だが、表面上の数字だけでは捉えきれない部分もある。どこが良く、どこが悪いという部分を数字でも出し、かつ上司が言葉でもしっかりとフォローアップする。
 このような細かい評価の見直しと職場環境の改善が、カープの躍進を支える一部になり、ここ数年は観客動員数200万人以上、地域の経済効果200億円以上(地元シンクタンクなどは300~400億円と発表しているが、数字に開きがあり、様々な算出方法がある。この経済効果についても、次回以降の部で分析を行いたい)にもつながっている。
今回まで、年俸についてみてきたが、このように各球団が工夫をこらして選手の年俸の支出と効果に向き合っている。

プロ野球の産業活性化が進めば、年俸も上がる

 ただ、気になるのが、プロ野球の産業全体についてである。現在、メジャーリーグはここ数年過去最高の売り上げを更新し続け、経済誌フォーブスによると2017年の収益が100億ドルを超え、15年連続の収益増を達成すると言われている。それに対してプロ野球はここ10年で約1500~1600億円を推移していると推計されており、メジャーリーグと比較すると約6倍の差が出ている。

 やはり全体的に上がってこないと選手の年俸も上がらないし、球団の収益も上がらない。
この部分は球界再編問題以降、様々なところから言われている点ではあるが、改めてプロ野球の発展にはリーグ全体の変革と各球団の経営努力はわけて考え、球界全体でどのようにしなければならないかを考えなければならない。
(※年俸の金額は推定)

 

 次回はこのような選手との年俸交渉や選手の編成を行い、アメリカでも人気職業の上位にランクするゼネラルマネージャーについて語っていく。

【スポーツ×お金】第2回 あなたが突然、球団のGMになったら、何が必要なのか?①

 

《ライタープロフィール》
藤本 倫史(ふじもと・のりふみ)
福山大学 経済学部 経済学科 助教。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。