キプタムがシカゴマラソンで2時間0分35秒
第45回シカゴマラソンが10月8日、アメリカ・イリノイ州で行われ、男子はケルビン・キプタム(ケニア)が2時間0分35秒の世界新記録で優勝した。エリウド・キプチョゲ(ケニア)が2022年9月25日に行われたベルリンマラソンで出した2時間1分9秒の世界記録を34秒更新。いよいよ人類初の2時間切りが見えてきた。
ハーフを1時間0分48秒で通過すると30キロ過ぎから猛スパートをかけ、後半のハーフはなんと59分47秒。2022年12月のバレンシアマラソンで2時間1分53秒という初マラソン世界最高をマークした23歳は、マラソン3戦目で驚異の世界新を叩き出した。
2019年にキプチョゲがオーストリアのウィーンで行われた特別レースで史上初の「サブ2(2時間切り)」となる1時間59分40秒をマークしたが、41人のペースメーカーが交代でローテーションを組んで走り「風よけ」になるなど、特殊なサポートを受けたため非公認となったことがある。しかし、今回の記録更新で、国際陸連が公認する正真正銘の2時間切りも現実味を帯びてきたと言えるだろう。
ここまで世界記録はどのような変遷を辿っているのだろうか。改めて振り返ってみたい。
草創期は40キロで行われていたマラソンが初めて42.195キロで実施されたのが1908年のロンドン五輪。金メダルに輝いたジョニー・ヘイズ(アメリカ)の記録は2時間55分18秒だった。
その後、徐々に記録は縮まり、日本の鈴木房重が2時間27分49秒の世界新記録を樹立したのが1935年3月。その3日後には池中康雄が2時間26分44秒と記録更新し、さらに同年11月に当時日本の統治下にあった朝鮮出身の孫基禎が、明治神宮体育大会で2時間26分42秒の世界新を出したとされている。
日本でも馴染み深いアベベ・ビキラ(エチオピア)が初めて世界記録を樹立したのが1960年のローマ五輪。シューズを履かずに2時間15分16秒で駆け抜け、「裸足のアベベ」として一躍有名になった。
アベベの記録を更新したのが日本の寺沢徹。1963年2月の別府大分毎日マラソンで2時間15分15秒の新記録を樹立した。しかし、その記録は同年6月にレオナルド・エデレン(アメリカ)、翌1964年にはベイジル・ヒートリー(イギリス)に更新された。
アベベ・ビキラは世界新で五輪連覇
1964年10月の東京五輪で2時間12分11秒の世界記録を樹立したのがアベベ・ビキラだった。20キロあたりから独走態勢に入り、完勝で2大会連続の金メダル。日本の円谷幸吉が2時間16分22秒で銅メダルを獲得した。
翌1965年6月には日本の重松森雄がポリテクニックマラソンで2時間12分00秒の世界新記録。これが日本男子選手がマークした最後の世界記録となっている。
その後、デレク・クレイトン(オーストラリア)が2時間10分を切り、2度の世界記録更新。長らく世界最高だったが、12年後の1981年、福岡国際マラソンでロバート・ド・キャステラ(オーストラリア)が2時間8分18秒で更新し、スティーブ・ジョーンズ(イギリス)が1984年のシカゴマラソンで2時間8分5秒の新記録をマークした。
さらにカルロス・ロペス(ポルトガル)が1985年のロッテルダムマラソンで2時間7分12秒を記録すると、3年後に同じロッテルダムでベライン・デンシモ(エチオピア)が史上初めての2時間6分台となる2時間6分50秒で優勝した。
10年以上破られなかったデンシモの記録を更新したのがロナウド・ダ・コスタ(ブラジル)。1998年のベルリンマラソンで2時間6分5秒の新記録を樹立した。翌1999年のシカゴマラソンで2時間5分42秒をマークしたハーリド・ハヌーシ(モロッコ)は、2002年のロンドンマラソンで自身の記録を4秒更新した。
2003年以降はほとんどベルリンで記録更新
2003年にポール・テルガト(ケニア)が2時間4分55秒で、世界は2時間4分台に突入。以降、キプチョゲの世界記録までは全てベルリンマラソンで樹立されている。
2007年にハイレ・ゲブレシラシエ(エチオピア)が2時間4分26秒、翌2008年には自身の記録を更新し、初の3分台となる2時間3分59秒をマークした。
2011年にはパトリック・マカウ(ケニア)が2時間3分38秒、2013年にはウィルソン・キプサング(ケニア)が2時間3分23秒、2014年にはデニス・キプルト・キメット(ケニア)が2時間2分57秒とケニア勢が次々に記録を更新した。
2018年にペースメーカーを置き去りにしたキプチョゲが2時間1分39秒の世界新をマークし、4年後に自身の記録を30秒更新。そして、2023年のシカゴでキプタムが驚異的な走りを見せ、ついに2時間0分台に突入した。
2時間切りを果たすとすれば、やはりケニア、エチオピア勢になるのだろうか。人類の進化と今後の記録更新に期待したい。
【関連記事】
・女子マラソン歴代世界記録の推移 チェプンゲティッチが「サブ10」達成
・隆盛再び!男子マラソン歴代日本最高記録の変遷
・マラソンのケニア、エチオピア勢が強い理由はヘモグロビン量と長い脚