女子1500mに日本人選手が出場するのは初めて
東京五輪の陸上女子1500mに田中希実(豊田自動織機TC)と卜部蘭(積水化学)が出場する。この種目に日本人選手が出場するのは初めてで、2人の出場は快挙と言っても過言ではない。
6月24日から27日に開催された日本選手権では、田中が4分8秒39で優勝、卜部は4分10秒52で準優勝した。両選手ともに4分4秒20の五輪参加標準記録を突破できなかったものの、各国3人の出場枠が満たされなかった場合は世界ランキング45位以内に入っていれば五輪の出場権を獲得できるという規定によって五輪代表に選ばれた。
世界ランキングによる五輪出場を果たすため、卜部は4月に行われた東京陸協ミドルディスタンス・チャレンジから、続けて6本もの1500mのレースに出場。日本選手権では自己記録を更新するなど、着実に実力を伸ばしている。
一方の田中は、7月17日に北海道で開催されたホクレン・ディスタンスチャレンジ2021で4分4秒08の日本新記録を樹立。選考の期間内ではなかったものの、五輪前に参加標準記録を上回った。
脅威的なスタミナを誇る田中と圧倒的なスピードを持つ卜部
同じ種目で五輪の出場権を獲得した田中と卜部だが、両選手のレーススタイルや強みは大きく異なる。
田中は1500mだけでなく5000mでも東京五輪に出場する。800mから10000mのトラック競技のみならず、クロスカントリーまでをこなすマルチランナーだ。
一般的に、陸上選手は種目の範囲を定め、専門性を高める練習を積む傾向にあるが、田中のアプローチは他の選手と異なり、練習を行う際に種目の境界線を設けていない。800mや1500mを大切にするからこそ、3000mや5000mで記録を出せると考えているのだ。
実際に日本選手権でも800m決勝を走った後、わずか30分後にスタートする5000mにも挑戦した。しかも、3位入賞し、田中の驚異的なスタミナが証明された。
また、スピード感のある力強い走りと安定したフォームも田中の特長。ラスト1周に差し掛かると、一気にスピードを切り替えるレーススタイルだ。
対して、箱根駅伝に出場経験がある父と日本選手権1500mで準優勝した母を持ち、中距離種目を専門とするのが卜部。強みは圧倒的なスピードだ。身長167cmならではのストライドを活かし、爽快な走りを見せる。ゴールに近づくにつれ徐々に順位を上げ、ラストスパートでは圧倒的なスピードで競り勝つ。まさに中距離選手の理想といえるレーススタイルだ。
1500mよりスピードが必要とされる800mでは、田中よりも卜部が優位に立っていると言えるだろう。日本選手権800mの結果は以下の通りだった。
スピードとスタミナが必要な1500m、田中が優勢か
1500mはスピードだけでなく、トラック3周半以上を走りきるスタミナが必要だ。もちろん、スタートの位置取りやラストはスピードが要となるものの、ペース配分を考えないと前半で大きくスピードダウンしてしまう。
やはり、800mを得意とする卜部と比較すると、持久力とスピードを併せ持つ田中の方が1500mに向いていると言えるだろう。
日本選手権の1500mは田中の独壇場だった。スタートからフィニッシュまで首位を保ち、2位の卜部とも2秒以上の差をつけてゴールしている。
田中の記録はリオ五輪準決勝の4位相当
田中と卜部は東京五輪で入賞できるのだろうか。結論から述べると、田中は決勝に進出する可能性が十分にある。2016年に開催されたリオデジャネイロ五輪の準決勝最終順位を振り返ってみよう。
田中の自己記録は準決勝最終順位の4位に相当する。五輪本番にベストパフォーマンスを発揮できれば、日本人で初めて女子1500mに出場を果たすだけでなく、メダル獲得という快挙を成し遂げるかもしれない。
そして卜部はどこまで田中に食らいつくことができるだろうか。彼女のスピードを活かしたレースにも期待したい。
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