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北京五輪惨敗の小平奈緒が貫いた「敗者の美学」金メダルの先にあったもの

小平奈緒,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

冬季五輪最多の18個のメダルを獲得した日本選手団

今回の北京冬季五輪ほど「敗者」がクローズアップされた大会も珍しいのではないだろうか。

日本選手団は金メダル3個を獲得し、メダル合計数では過去最多だった2018年平昌五輪の13個を上回る18個を獲得した。それだけ勝利やメダルの喜びを爆発させたアスリートも多かったが、一方で残酷なまでに厳しい結果を突き付けられた選手も少なくなかった。

スキージャンプで失格に涙した高梨沙羅、クワッドアクセルに果敢に挑んだ羽生結弦、ゴール直前で転倒して金メダルを逃したスピードスケートの髙木菜那…。多くの言葉はいらない。各選手がこれまで積んできた努力は結果につながらなかったとはいえ、日本中に感動を与えたことは間違いない。

連覇狙った500メートルで17位に終わった小平奈緒

中でも特に印象的だったのは、スピードスケートの小平奈緒だ。

2018年平昌五輪女子500メートルで五輪記録を更新して金メダルを獲得。レース終了後、小平に敗れて五輪3連覇の夢を絶たれたライバルの李相花が泣きじゃくるのを見て、自分の喜びは胸にしまって肩を抱き寄せて声をかけた姿は、トップアスリート同士の強い絆を感じさせ感動を呼んだ。

小平は北京で連覇に挑んだ。しかし、結果は500メートルで17位、1000mで10位。五輪王者としては「惨敗」と言うしかない結果だった。

実は五輪の1カ月前に練習に向かう道中で足を滑らせ、右足首を捻挫したという。35歳の女王にとって、直前で練習すらできない日々は、「辛い」などという陳腐な表現では足りないほど、絶望感に打ちひしがれただろう。

結局、ベストには程遠い状態でレースに臨み、小平は敗れた。自身のインスタグラムにはこう綴っている。

「成し遂げることはできずとも、自分なりにやり遂げることはできた」

五輪連覇という偉業は達成できなくても、悩み苦しんだ日々を乗り越え、勝負には負けたが自分には勝ったという思いだろう。ケガを言い訳にせず、潔く負けを認める姿には清々しさを覚えた人も多いはずだ。

「目指してきたのは金メダルではなかった」

1月12日のインスタグラムにはこんな記述がある。

「4年前、『私が目指してきたのは金メダルではなかったことがわかった』そう言ったことをふと思い出しています。(中略)私にとって今この瞬間にしかできない『唯一無二』の挑戦に、真っ直ぐ向かっていきたいと思います」

金メダリストにしか言えない言葉だが、誰もが憧れ、夢にまで見る金メダルを手にすると、実は欲しいものではなかった。

一体、何のために厳しいトレーニングを積み、あらゆる犠牲を払い、五輪の舞台を目指すのか。頂上に立つことではなく、頂上を目指して山を登ることに価値を見出したということなのだろうか。筆者のような凡人がいくら想像力をかき立てても正解は分からない。

「この先もそよ風のように」

小平は誰かと戦っていた訳ではない。誰かに勝ちたかった訳でもない。勝敗を超越したところで一切の妥協を排除し、ただ己と向き合って努力を続けてきたのだ。

だからこそ、平昌では勝っても奢らず李相花に寄り添い、北京では素直に結果を受け入れた。アスリートとして過ごしてきた時間に嘘、偽りはなく、周囲への感謝、ライバルへのリスペクトを忘れなかったからこそ、言い訳を口にすることもない。

北京五輪後のインスタグラムではこう締めくくっている。

「カタチには何も残らない五輪でしたが、この先もそよ風のように『あ、今の風心地良かったな』と思っていただける存在でいられたら幸いです」

可憐に力強く咲き誇った一輪の花は儚く散った。心地良い風に乗って届いた残り香は、世界中のファンの記憶に刻まれるだろう。

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