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高梨沙羅が泣いたスーツ規定違反、5人失格の異常事態はなぜ起きた?

2022 2/13 06:00田村崇仁
ジャンプ混合団体で2回目を飛び終えた後うつむく高梨沙羅,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

太もも回りに2センチの狂い、不可解と批判も

北京冬季五輪の新種目、スキー・ジャンプ混合団体で女子のエース高梨沙羅(クラレ)がスーツの規定違反で失格となった問題は世界各国で波紋を呼んでいる。2月7日、出場した40選手のうち、高梨を含む計4カ国の女子5選手が失格する異常事態はなぜ起きたのか―。

「私の失格のせいでみんなの人生を変えてしまった」「今後の私の競技に関しては考える必要があります」。「どうかスキージャンプという素晴らしい競技が混乱ではなく、選手やチーム同士が純粋に喜び合える場であってほしいと心から願います」。競技翌日の8日夜、高梨は真っ暗な画像とともに、インスタグラムに自身の進退もうかがわせる謝罪を投稿した。

男女2人ずつで争う混合団体の1番手だった高梨は、1回目に103メートルの大ジャンプを見せ、笑顔で手を振った。だが、その直後にスーツの太もも回りが2センチ大きかったとして規定違反で失格になった。ランダムで実施されるスーツ検査の結果でこの飛躍の得点は0点に。失意の高梨は気を取り直して2回目を飛び終えると、謝罪するように深々と頭を下げた。

高梨には激励や擁護する声が圧倒的だが、大波乱が起きた背景には飛距離に直結する各国のスーツ開発競争に合わせた厳しいルールが存在する。

限界狙う開発競争、ゆとり幅を厳密に規定

ジャンプのスーツは大きなスーツを着ている方が空気抵抗も増え、そもそも有利になるケースが多い。性能次第でメダル争いに影響を及ぼし、大きくなるほど「揚力」を得られて飛距離が出やすくなるため、国際スキー連盟(FIS)が「ゆとり幅」のサイズを厳密に規定している。

現在は実際の体のサイズから男子が1~3センチ、女子は2~4センチで、飛躍の前後に検査される。その限界値を狙って勝負する各国のシビアな開発競争があるのだ。

選手は身長や股の長さ、腕の長さ、首のサイズなども計測され、体の部位ごとにスーツが適正なサイズかどうかも確認。スーツ違反で失格するケースは、男子のエース小林陵侑(土屋ホーム)も昨年11月のワールドカップ(W杯)で経験しており、実はさほど珍しくない。昨季のW杯では、高梨や混合団体で一緒に出場した女子の伊藤有希(土屋ホーム)も規定違反による失格の経験がある。

しかし、5人の失格者が相次ぐのは異例で、各国から不可解な判断や検査方法の混乱を巡って怒りや批判の声が相次いだ。

張家口の標高の高さと極寒も要因?

河北省張家口にあるジャンプ会場は、1700メートル前後の標高の高さと極寒だったことも影響した可能性がある。1回目のジャンプが行われた午後8時ごろの気温はマイナス10度ほどで、湿度は38%という厳しい条件だった。

各国選手はなるべく大きなスーツを着用できるよう、試合前にトレーニングで筋肉を張った状態に膨らませた上で、規定ぎりぎりのスーツを着て出場する。関係者は会場の空気が乾燥していて体内の水分が放出されやすい上、寒さで筋肉が縮みやすくなったのではと分析する。

失格の対象者は全員女子で、しかもドイツとオーストリアの2人は過去の五輪銀メダリスト。スーツの規定に気候や体型の維持など、あらゆる要素が重なった可能性がある。ちなみに高梨は4位だった2月5日の個人戦と同じスーツを使っており、その時は違反と判断されなかったという。

高梨の悲痛な叫び、求められるルール改善策

高梨のスーツ問題は、むしろ失格者がノルウェー、オーストリア、ドイツを含めた強豪に偏った点から、許容範囲ぎりぎりで争う世界のシビアな現実が浮き彫りになった。スポーツでルールを守ることは根幹。それでも「ジャンプという競技が選手やチーム同士が純粋に喜び合える場であってほしい」との高梨の悲痛な叫びを無駄にしてはいけないだろう。

五輪だけ厳しいチェックがあったのか不明だが、ランダムに検査するのは公平性の観点で問題がある。五輪では予選や試技の段階で体形を測り、今後は適合しなければウエアを変えさせるなどの改善策を図るべきだ。

ジャンプ競技にとってスーツも戦略の一つ。今回の騒動をきちんと検証し、ルールが取り締まり目的ではなく、規則の範囲内で実力を競い合うためのものと捉えられるよう改革を図ってほしい。

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