リーグ総得点の59.1%が後半
2019年のJ1総得点数は797点。2018年の813点よりも16点減少。前後半で分けると、前半326得点/後半471得点。全得点の59.1%が後半となり、2018年の後半得点率58.8%とほぼ同じ。全体の得点数は下がったが前後半の比率にはほぼ変化が見られなかった。
チームごとの成績に目を移すと、得点・失点の差が2018年よりも広がっていることがわかる。最多得点は2018年川崎Fの57得点に対し、2019年横浜FMは大幅に上回る68得点。2018年に50得点以上を記録したチームは川崎F、横浜FM、清水、名古屋、浦和、鹿島で、2019年は横浜FM、神戸、川崎F、札幌、鹿島、G大阪。
失点数も同様の傾向にあり、2018年の最少失点川崎Fの27に対して、2019年はC大阪が25失点。また、1試合平均失点が1以下となる34失点以下のチームも2018年の3チーム(川崎F、FC東京、鳥栖)から、2019年は5チーム(C大阪、FC東京、広島、鹿島、川崎F)に増加している。
以下の図は90分を15分区切りで6分割し、チームごとの得失点量を明るさで表したものだ。
一つの時間帯あたりの平均得点はリーグ平均を6で割って約7.4点。図で見ると、リーグ平均同様に全てのチームが後半に得点している。そのため、得点が多いチームと失点が少ないチームがハッキリと分かれるようになった。
中でも、特徴ある結果で優勝を決めた横浜FMと最後まで優勝を争ったFC東京、リーグ最少失点を記録したC大阪、そして昇格チームながら印象的なサッカーを見せた大分、の4チームをピックアップしよう。
ほぼ全ての時間帯で得点を奪い続けた横浜FM
2019年最多得点で王者となった横浜FMが、15分間の時間帯平均約7.4点を下回ったのは46〜60分のみ。試合の立ち上がりから、得点を奪い続けるという驚異の得点力を発揮した。
より活発だったのは、31〜45分の前半終了間際と61〜75分、76〜90分の試合終盤の3つの時間帯で、いずれもリーグ最多得点で平均を大きく上回っている。これは、早いタイミングで積極的に敵陣までボールを運び、例えボールを失ったとしても立ち上がりから「即時奪回を狙う」という敵陣制圧型の戦い方を徹底したため、時間の経過と共に対戦相手が耐えきれなくなったからだろう。
一方で、1分〜15分に時間帯ワースト2位となる10失点も記録している。試合の立ち上がりから見せる積極性が裏目に出てしまうこともあるということだ。とはいえ、リーグ最多となる23試合で先制に成功している。また、先制点を奪った試合での勝利数20もリーグ最多だ。
立ち上がりから積極的に敵陣にボールを運ぶスタイルにはリスクがあるといえるが、それ以上の見返りを得たシーズンでもあった。
同じペースで得点を奪うFC東京
FC東京の時間帯別得点数はかなり特徴的だ。試合開始直後1〜15分こそ5得点だが、その後は8-8-9-8-8と、ほとんど同じペースで得点。ピークと呼べる時間帯が存在しないのだ。
FC東京の戦い方は攻守の切り替えを軸に組み立てられており、守備から攻撃への素早い切り替えで、ディエゴ・オリヴェイラと永井の2トップの爆発的なスピードと推進力を活かす「スプリント重視スタイル」となっている。前半からコンスタントに得点を奪うことができているのだろう。
しかし、相手チームは時間の経過と共に疲れがたまるため、得意とする「切り替えの局面」は時間の経過と共に生まれやすくなる。となると、時間が進むにつれ得点が増えていきそうなものだが、そうならなかったのは2トップのプレー時間による影響がありそうだ。
2019年、ディエゴ・オリヴェイラと永井が共に先発した試合は34試合中31試合。ほとんどの試合を2人でスタートしている。だが、75分以降に2人がピッチに立っていたのは12試合のみで、最低でもどちらか1人は75分よりも前に交代している。
ディエゴ・オリヴェイラと永井の2人が奪った得点は、チーム総得点のちょうど半分の23。試合終盤に途中出場で得点を奪うことができるスーパーサブがチームにいれば、優勝争いの結果もまた違ったものになっていただろう。
リーグ最少失点を記録したC大阪
リーグ最少失点を記録したのはC大阪。年間25失点はJ1史上2位タイとなる数字である。この失点数を時間帯別でみると、前半に4失点しか喫しておらずJリーグ史上最少。これまでの前半最少失点が年間30試合制だった2000年に鹿島が記録した6、現行の34試合制となってからは2017年の川崎Fが記録した7だったことを考えると、この4失点が驚愕の数字であることがわかる。
また、前半の得点18はリーグ10番目の記録で平均以下と、決して多くない。しかし、前半4失点という記録を持っているため、横浜FMに次いで22試合でリーグ2番目に先制点を奪うことに成功。これが上位進出の要因となった。
一方で22試合に先制しながら、勝利につながったのは17試合。先制時勝率77.3%は上位争いをするには少し物足りない。また先制された試合での逆転勝利もわずか1にとどまった。これは後半の得点数が21(全体の53.8%)と伸びず、失点数が21(全体の84.0%)と増えていることによるものだろう。
前半に比べると大きく増えたように感じる後半の21失点だが、実はリーグ4位タイの数字なので決して悪いものではない。そうなると課題は得点だ。特に61〜75分は、わずか4得点(リーグ最少タイ)と攻撃が停滞してしまう傾向があるので、上位・優勝争いに加わるためには得点力の改善が急務だろう。
全体の37%を46〜61分に奪う大分
昇格組ながら、印象的な戦い方を見せた大分。最終的には9位でシーズンを終えたが、順位以上のインパクトを残したチームだといえる。得失点の分布でもかなり特殊な結果を残している。
最も得点を奪った時間帯が46〜61分で13得点。15分ごとの時間帯別推移が「3-4-5-13-5-5」となっており、この時間帯の得点が全体の37.1%を占めている。13得点のうち第17節までのシーズン前半戦で記録したものが10点(8試合)。さらにこの時間帯に得点を奪った8試合の結果が6勝1分1敗で、その6勝全ての決勝点がこの時間帯の得点。またそのうち5試合が0-0からの先制点。シーズン序盤戦は0-0から46〜61分に先制点を奪って、そのまま逃げ切る展開が勝ちパターンだった。
これは、「ボールを自陣でゆっくり保持しながら、相手が奪いに来たところを裏返すようにカウンターをしかける」という大分の戦い方を象徴している。前半0-0で折り返し、後半に相手がボールを奪おうと前がかりになったところ、逆を突いたのだろう。
しかし、第18節以降のシーズン後半戦では46〜61分の得点はわずか3。さらに結果も2分1敗と勝利が無い。これは、対戦相手が大分の戦い方を分析した結果だろう。事実、成績にも表れており、前半戦の8勝5分4敗に対し後半戦は4勝6分7敗と失速している。2020年シーズンは相手チームの対策を上回る新たな手が必要となりそうだ。
打ち勝つ横浜FM、補強による改善を目指すFC東京、C大阪
リーグ全体での傾向としては2018年と変わらないが、ばらつきの幅はさらに広がりを見せた2019年。これは各チームの戦術やプレースタイルの多様化が進んだ結果だろう。
リスク承知の打ち勝つ戦い方で結果を残した横浜FM。オフシーズンの動向を見る限り2020年も同様の戦方でいきそうだ。一方、FC東京はアダイウトン、レアンドロという得点力のあるアタッカーを獲得し、C大阪は坂元、豊川という停滞した状況を打破できる選手を獲得した。
横浜FMの優勝、神戸の天皇杯優勝など新たな傾向が見られた2019年。まもなく開幕する2020年のJリーグでは各チームの時間帯得失点にどの様に表れるのか楽しみにしたい。