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2019年J1のチーム別ゴールキックから見る「再現性」へのこだわり

2020 2/9 11:00中山亮
サッカーのイメージ画像ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

現代サッカーのキーワード「再現性」

現代のサッカーでキーワードとなりつつあるのが「再現性」。一見ランダムな結果に見える試合中の事象に再現性という捉え方を持ち込み、ピッチ上で起こることをなるべくコントロールしやすくしようという考え方である。

再現性を考えやすいのが、ある一定以上の回数があり、かつ常に同じ場所から始めることができるゴールキック。ゴールキックに注目することで各チームのインプレー直後の再現性へのこだわりが見えてくる。

最高は横浜FMの90.7%、最低は松本山雅の44.0%

まず各チームのゴールキックのデータから見ていこう。

表・2019年J1チームゴールキックデータⒸSPAIA


ゴールキックで成功率No.1を記録したのは横浜FM。90.7%で唯一の9割超えを果たした。

それに続くのが81.2%の神戸、C大阪の79.2%となり横浜FMの成功率の高さが際立っている。

一方で成功率が最も低かったのは松本山雅の44.0%。仙台も49.2%で50%を越えず。この2チームは2度ゴールキックがあれば1度は相手ボールになっているという計算である。

このゴールキック成功率に大きな影響を与えているのがゴールキックの距離だ。当然ながら距離が短い方が成功率は高い。成功率No.1の横浜FMであればゴールキックの内80.5%がショート(15m未満)またはミディアム(15m以上30m未満)のパスとなっている。

この距離を具体的にいうと、ショート(15m未満)はペナルティエリア内もしくはペナルティエリアすぐ外にいるCBもしくはディフェンスラインに下がってきた守備的MFへのパス。その1つ前にいる、下がっていない守備的MFやSBへのパスがミディアム(15m以上30m未満)である。

再現性にこだわる、ゴールキック成功率上位グループ

横浜FMの成功率90.7%は少し抜けているが、それに続く神戸、C大阪、札幌、大分、G大阪あたりまでのチームはゴールキックからのビルドアップに一定の再現性があるチームといえるだろう。

これらのゴールキック成功率上位6チームはそのままショート・ミディアム比率の高い6チーム。特にミディアムパスの比率がその他のチームと比べると圧倒的に高い。

これはそれぞれゴールキックに決まった「型」を持っているからで、それが再現性を高めているのだ。

これら6チームは2020年も同じ監督の下で戦うので、それぞれのチームが持つ「ゴールキックの型」に注目してみるのも面白いだろう。

ゴールキックの再現性にこだわらないチーム

一方でゴールキックの再現性にこだわらないチームもある。ショート・ミディアム比率がおよそ25%前後の鹿島、浦和、FC東京、川崎F、名古屋、広島、鳥栖がそれにあたる。

これらのチームはショートやミディアムもチャンスがあればトライするが基本的には30m以上のロングキックを蹴る。ロングキックのリーグ平均比率が70%なのでほぼ平均近くにいるチームと言えるだろう。

成功率に差があるのはおそらくターゲットの有無の差なので、ゴールキックでボールを失うこと自体は問題にしていない。

シーズン途中に監督交代があった名古屋や、川崎Fなどパスの印象が強いチームがこのグループにいるのは少し不思議に感じるかもしれないが、この両チームが重視していたのはコンビネーションという名の即興性。そのためゴールキックにも「型」ではなく選手個々の判断を重視しているのだ。

川崎Fと鹿島、FC東京、広島などとは、パス数やボール支配率といった観点では全く異なるスタイルに見えるが、再現性という切り口では近い関係にあるといえる。

ボールの位置にこだわるチーム

ここまで挙げた13チーム以外の5チーム、仙台、湘南、松本山雅、清水、磐田はショート・ミディアム比率が15%以下。30m以上のロングキックが85%を超える。 ロングキックを多用するため、成功率は前線の選手の質(ヘディングの強い選手がいるかどうか)によって変わってくるが、これらのチームがそれ以上にこだわっているのがボールの位置。ボールを保持しているかどうかよりもボールがどこにあるかである。

そのためこの5チームの内、磐田を除く4チームはそのままボール支配率でも低い順の4チーム。

自分たちでボールを運ぶというよりも、相手のボール保持に対してプレスをかけボールを奪うことで攻撃を始めようとしているチームである。

ボール保持だけでなくボールの位置にこだわることで再現性を高めようとしているのだ。