こぼれ球奪取率、ロストからのリゲイン率は抜群
京都サンガが12年ぶりにJ1リーグの舞台に復帰する。曺貴裁監督の下で昨季J2リーグ59得点、リーグ最少31失点。「Spirit(魂)」「Surprised(驚き)」「Succeed(成功)」の意味が込められた「S」を念頭にした「S Adventure」のチームスローガンを掲げ、今季はJ1定着の土台作りと位置付ける。昨年1年で見えたチームの強みと弱みは何なのか、数字は雄弁に語る。
「湘南スタイル」というフレーズに代表されるように、曺貴裁監督のサッカーは全員がハードワークする。残念ながらJ2はトラッキングデータが計測されないので、走行距離やスプリント回数は不明だ。だがサッカーの基本原則の一つでもある「走る」能力が高いことはアタッキングサードでのプレー回数やこぼれ球奪取回数から見えてくる。
フィールドを三分割して敵陣エリアの1/3の部分をアタッキングサードという。京都は昨年7195回を計測。これはJ2リーグでは3位の数値で、試合数が異なるとはいえJ1クラブと比較しても横浜Mマリノス(7756回)、川崎F(7604回)に次ぐ(ちなみにJ1での3位は広島の5899回)。いかに人数を割いて敵陣になだれ込んでいるか。

こぼれ球奪取率、ボールロストしてからのリゲイン率も秀でている。
こぼれ球奪取回数はJ2で2位の1611回。J2リーグはどうしてもJ1に比べて技量を運動量でカバーせざるを得ないが、J1トップの鹿島が1275回ということを見ても圧倒的だ。
さらにこぼれ球奪取率52.1%はJ2で3位。J1クラブでは横浜Fマリノスの52.4%、広島の52.2%が京都よりも上にいるだけだ。こぼれ球奪取率を高めるには広範囲に動けることは当然、予測と適切なポジショニングが必要。その意味で京都はよく整理されている。
そしてリゲイン率は京都がJ1で戦う上で最も大事にしないといけない部分だろう。
昨季はボールロスト後5秒以内のボール奪回率がJ2トップの21%。ロスト10秒以内となれば同2位の38.5%となる。どちらもJ1クラブよりも高く、この数値をキープできればマイボールの時間を延ばし、失点数を減らすことにつながるはずだ。

敵陣ゴール前での決定力は課題
もちろんサッカーは走力を競うゲームでもなければ、ボールを握るスポーツでもない。得点を取らなければならない。京都は昨季元ナイジェリア代表FWピーターウタカが22得点、FW宮吉拓実も10得点を挙げた。
アタッキングサードでのプレー回数が多く、J2では2位のシュート数471本、クロス本数も同3位の688回。リスクを冒した姿勢は見る側をワクワクさせるが、こと決定率を見れば低い。
例えばシュート決定率は12.5%。これはJ2全体11位だ。J1を見ればトップの神戸は17.6%で、2位・川崎Fはシュート472本を放ちながら16.5%。3位の横浜FマリノスはJ1トップのシュート522本を放ちながら14.9%となっている。

また京都のクロス成功率はJ2全体17位の20.3%。昨季のJ1で見れば、京都よりも確率が低いのは横浜FC、大分、徳島の3クラブのみだ。J1には強力な外国人ストライカーがいるのが明白だが、昇格組の京都にとって得点チャンスはJ2ほど多く生まれないことを考慮すれば、今季新戦力のFW豊川雄太やFW山﨑凌吾を含めてゴール前での決定率UPは不可欠だ。
そして昨季はセットプレーからのチーム総得点は「10」でJ2最下位。キック精度の高いMF大前元紀を獲得したのは、こういう理由からだろう。
横浜Fマリノスとの類似点と「差」
実際に横浜FマリノスはJ1で2位の1試合チーム平均走行距離120.3キロメートルを計測しているが、京都の強みは実は横浜Fマリノスが持っているものと共通項が多い。
では、なぜ横浜Fマリノスが得点数や得点率を高く保てているのかといえば、やはりパス本数と成功率、そしてボール保持する場所にも依るだろう。
京都は19021本(J2全体13位)で成功率74.5%(同14位)。
横浜Fマリノスは25310本(J1全体1位)で成功率もトップの83.1%。
そして京都のポゼッション率52.8%に対して、横浜FマリノスはJ1トップの60%。何よりもミドルゾーンやアタッキングサードでの保持率がJ全体のトップとなっており、いかに相手ブロックを剥がすか、立ち位置で優位性を保つかに優れていることが分かる。
京都には京都の良さがあるので、決して横浜Fマリノスの真似をする必要はないが、「繋ぎ」の部分の向上はJ1定着の近道とも取れる。
ボール奪取率をキープしつつ、シュート決定率やパス成功率を高められるか。2月19日にはリーグ開幕浦和戦を控える。その点に注目するのも今季J1での戦いを探る上で参考になるはずだ。
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