オンラインミーティングで発表された厳しい現実
新型コロナウイルスの感染拡大防止のためJリーグが中断してから2か月が過ぎ、各クラブはかつてない存続の危機にさらされている。そんな中、サッカークラブとサポーターの新しい関係性が生まれはじめた。携帯電話やパソコンの画面越しに参加できる「オンラインミーティング」をクラブが開催し、公式YouTubeチャンネルにその様子を投稿、積極的に情報を発信する動きが広まっている。
J2松本山雅FCは4月29日、公式YouTubeチャンネルで「WEBサポーターミーティング」を開催した。神田社長らスタッフ4人が抽選で選ばれたサポーター14人と、現在のクラブの経営状況、この先の方針などについて議論。そこで明らかになったのはプロサッカークラブが置かれた厳しい現状だった。
松本山雅は今シーズン当初、J2王者となった2018シーズンの収支を反映した予算を立てていた。しかしながら当初の計画を大きく変更した「コロナ予算」を組み直さなければならなくなっていることがわかった。
2018シーズンの確定した営業収入22億3900万円のうち、広告料収入が9億9000万円、入場料収入が5億円と計上されている。当初の2020シーズン予算では広告を現状維持、入場料は増額し5億1200万円としていた。
しかし「コロナ予算」では、この2項目合計約15億円を「半減もしくは無収入として計上せざるをえない」(経理担当・加藤氏)としており、最大12億円の赤字をシミュレーションしていると説明した。
10期連続黒字を達成しているクラブのこの発信に、サポーターたちは愕然としただろう。
サポーターが支える松本山雅の特殊性
長野県松本市に本拠地を置く松本山雅FCは「奇跡のクラブ」と呼ばれている。その一番の理由は地元の行政や企業からの多大なバックアップと、日本屈指の熱きサポーターから受ける熱烈な“援助”に他ならない。
Jリーグが公表している2018シーズンの最終決算によると、20億円以上の営業収入をあげたJ2クラブは松本山雅以外に3つ。大宮アルディージャが約39億円、ジェフユナイテッド千葉が約28億円、アルビレックス新潟が約24億円だ。
上記3クラブと比較すると、松本山雅は異彩を放っている。例えばスポンサーからの広告収入。大宮は26億円、千葉は20億円を広告料収入が占めている。つまり収益の半分以上が他企業からのサポートなのだ。対して松本山雅は9億9000万円なので全営業収入の50%以下だ。
最大の特徴は物販収入の多さ、つまりグッズの販売によるもの。2億6000万円は、2位の新潟の約2億円を引き離して、2018シーズン全クラブ中1位だった。
入場料収入も約5億円で新潟と並びJ2トップ。つまり松本山雅では、サポーターがクラブに1年間でおよそ7億6000万円、つまり営業収入の1/3に上るお金を落としているということが数字上、証明されている。
サポーターはクラブをどう支えていけばいいのか
信濃毎日新聞によると、松本山雅の物販の売り上げが去年の4月と比べて半減(240万円→120万円)しているという。オンラインショップの売り上げはスタジアムでの直販の半分ほどで、上條副社長は「他クラブと比べてオンラインの割合が低い」と分析している。そのため試合が行えない期間が長引くほど、マイナスは大きくなる。
この先、サポーターがクラブを支える方法は大きく分けて2つだろう。
第一にグッズの購入。2018シーズンの決算によると、グッズ製造と販売にかかる支出は1億3000万円。つまり、グッズ収入2億6000万円のうち半分しか経費がかかっておらず利益率が高い。積極的にオンラインショップを使いたい。
第二にスクール事業への参加。松本山雅は長野県内各地で運動教室やサッカー教室を開催しており、2020年は自治体だけでなく一般の利用者向けへの有料スクールを増やしていくだろう。スクール事業はコンサルティングと似ていて、必要な経費は移動と人件費のみで、収入は利用者数に応じて無限に大きくなっていく。利用者にとってもプロコーチの最先端の指導を受けられる数少ないチャンスなので、メリットは大きい。
クラブの一方的な発信だけではなく、クラブがサポーターと直接つながり、その中で新しい価値を生み出していく。サポーターとクラブ、両方のパラダイムシフト(価値転換)が起こる2020シーズンとなりそうだ。
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