札幌・ペトロビッチ監督を師と仰ぐ大分・片野坂知宏監督
昨シーズンのJリーグで大きなインパクトを残した2つのチームがある。クラブ史上初のタイトルまであと一歩(ルヴァンカップ準優勝)に迫った北海道コンサドーレ札幌と、7年ぶりのJ1挑戦ながら18チーム中9位でリーグ戦をフィニッシュするという健闘を見せた大分トリニータだ。北海道と大分県、遠く離れたそれぞれのチームが見せたのは、同じルーツを持つ魅惑のアタッキング・フットボールだった。
2018年から北海道コンサドーレ札幌(以下、コンサドーレ)を率いるのはミハイロ・ペトロビッチ監督。サンフレッチェ広島と浦和レッズで一時代を築いたのち日本最北端の地へやってきた彼は、就任初年度にクラブ史上J1最高成績の4位でシーズンを終えるという大躍進をもたらした。
そんなペトロビッチ監督を師と仰ぐのが、2016年から大分トリニータ(以下、トリニータ)を率いる片野坂知宏監督だ。就任時トリニータはJ3にいたが3シーズンでJ2準優勝を成し遂げ、昨季J1で台風の目となるチームを作った。
ふたりは2010年にサンフレッチェ広島で出会い、師弟関係となった。片野坂コーチはペトロビッチ監督の独特なチーム作りに多大な影響を受けたという。
しかし、同じ戦術を志向するふたりの監督のふたつのチームは、全く違うデータを示している。
同じルーツ、異なるスタイル
ペトロビッチ監督の戦術は“ミシャ式”(「ミシャ」はペトロビッチ監督の愛称)と呼ばれる。基本フォーメーションは3-4-2-1を採用し、攻撃時は両サイドのウイングバックが高い位置を取り5トップのような形になる。3人のセンターバックにダブルボランチの片方が加わって4バック化するため、一時的に4-1-5に変形する。
選手が絶え間なくポジションチェンジして対戦相手を混乱させ、その隙を突いて攻撃する。守備時は両ウイングバックが下がってボランチが元の位置へ戻り5-4-1の強固なブロックを作る。
トリニータのスタイルは“ミシャ式”の亜種だ。ボランチが下がって4バック化するパターンと、ボランチが下がらずゴールキーパーを上げて4バック化するパターンを兼用する。
ゴールキーパーを上げるのは相当なリスクを伴い、事実、ボールを奪われてガラ空きのゴールへシュートを打たれるというシーンが何度かあった。しかし片野坂監督はブレずに続けた。その大胆な姿勢が、“ミシャ式”の新たな流派を確立した。
データで読み解く2つの“ミシャ式”
似て非なる両チームの“ミシャ式”をデータからひもといていこう。
まず、コンサドーレが自陣でボールを持っている割合を示す「自陣ポゼッション指数」は53ポイントでリーグ7位だが、「ロングカウンター指数」、つまりディフェンシブサードでのボール奪取から15秒以内にアタッキングサードを狙った割合はリーグ2位。
また「ショートカウンター指数」が2018年の40ポイントから2019年には54ポイントと急上昇しているのに加え、2019年の「中央攻撃」の割合がリーグ1位となっている。
チーム内で誰が最もパスを受けているか数値化した「パスレシーブポイント」は、中央でプレーするセンターフォワード鈴木がチーム1位、シャドーのチャナティップが2位、A・ロペスが3位。つまり、サイドで幅を取ったウイングバックを餌にして中央に人数をかけて素早く攻める、ポゼッション型と見せかけたカウンター型のチームと言える。
一方、トリニータの「自陣ポゼッション指数」は、73ポイントと断トツでリーグ1位。トリニータは2019年のJ1で最も自陣でボールを持っていたチームということになる。
しかし、「ロングカウンター指数」は最下位。「中央攻撃」の割合も最下位となっているが、シュートを放った確率はリーグ最高だった。
「パスレシーブポイント」は、サイドに張るウイングバック松本が1位、シャドーやボランチを務める小塚が2位、センターバック岩田が3位。つまり、トリニータはゴールキーパーとディフェンダーにポゼッションさせて、中央の餌に食らいついてきた相手をサイドから突破する疑似カウンターのチームと言える。
強力なフォワードを擁する直線的なコンサドーレと、J2から昇格し予算の少ない中、能力で劣るフォワードにスペースを与えるため道を広げたトリニータ。リーグ戦再開後は、チームの最大値を引き出すためにそれぞれ異なる進化を遂げている2つの“ミシャ式”に注目したい。
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