「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

神戸は“Jリーグの巨人軍”になれるか?悲願のリーグ制覇へ鍵はイニエスタ

2020 2/21 06:00桜井恒ニ
天皇杯優勝した神戸のイニエスタ(中央)ら選手たちⒸゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

2020年シーズンいよいよ開幕

2月21日の湘南ベルマーレ対浦和レッズの一戦を皮切りに、いよいよJリーグの2020年シーズンが幕を開ける。実力が拮抗し、どのクラブが優勝するか予測が難しいJリーグにあって、今年も注目されるクラブの一つがヴィッセル神戸だろう。

楽天の多大な金銭的サポートを受ける神戸は、2019シーズンは開幕からアンドレス・イニエスタ、ダビド・ビジャ、ルーカス・ポドルスキを擁し、優勝候補の一角にも挙げられた。

しかしいざ蓋を開けてみると、第1節のセレッソ大阪戦で0-1で敗北。その後も波にのることができず、春に公式戦9連敗。下位に低迷し、あわや2部降格かと思われた。

9連敗から立て直し、天皇杯優勝クラブに成長

変化は夏に起きた。6月にトルステン・フィンク監督が就任し、7月にトーマス・フェルメーレンと飯倉大樹、8月には酒井高徳が加入すると守備が安定。勝ち星が増えて、リーグでは最終的に8位まで順位を上げている。

また天皇杯では、ポドルスキや古橋亨梧ら前線と中盤が噛み合い、国立での元日決戦で鹿島アントラーズを2-0で下して初優勝。AFCチャンピオンズリーグへの出場権も獲得した。

2020年シーズンの立ち上がりは上々だ。神戸は守備が安定するとともに、前線・中盤の形も出来上がってきた。ACLグループステージ第1節のジョホール戦などでは、清水エスパルスから加入した新FWドウグラスが得点をあげ、早くもチームにフィットしつつある。小川慶治朗のハットトリックも好材料だ。リーグ戦で7アシストを記録した右DF西大伍の残留も大きい。

ヴィッセルの注目はやはりイニエスタ、課題は“稼働率”

一番の注目は、やはりイニエスタだ。リーグ戦で6得点6アシストをマークしたパフォーマンスは、ジョホール戦を見るかぎり、今年も異次元だ。体力の衰えこそ否めないものの、中盤でチームの攻め上がりをコントロールし、前線に極上のパスを提供する。

「こんなところを通すのは無理だろう」というわずかな隙間から決定的なパスを繰り出す様は圧巻だ。古巣バルセロナから、冬の復帰移籍を打診されたのもうなずける(今回の移籍はチーム内政治の取りまとめも求められてのことだろうが)。

神戸が掲げる“バルサ化”の象徴であり、キャプテンであるイニエスタは、今や完全に神戸の中心だ。悲願のJリーグ優勝・ACL制覇には不可欠な力だ。

ただしイニエスタは、現在35歳。5月11日の誕生日を迎えれば36歳になる。プロのサッカー選手としては体力的ピークをすでに超え、ケガもしやすい年齢だ。

昨シーズンもケガに泣かされる時期があり、年間の試合出場数が26試合にとどまった。リーグ戦だけ見ると、34試合中23試合。約67.7%の出場率だ。イニエスタ不在の試合が少なくない。

ACL出場でクラブの試合数が増えることを考えれば、イニエスタのフル稼働はかぎりなく困難であり、イニエスタがいない試合の割合が増えると予想される。そうなると、イニエスタ不在時に勝ち切るパターンの確立が不可欠だ。

隠れキーマンはサンペール?

イニエスタがいないピッチで攻撃の舵取り役は、今季もセルジ・サンペールらが担うことになるだろう。

サンペールは、加入直後の昨冬こそぎこちないパフォーマンスだったが、徐々に調子を上げて(日本文化にもすんなりフィットし)、フィンク監督やイニエスタの下で上々のパフォーマンスを見せている。ただしバランサーの役割が強すぎるのか、昨シーズンのJリーグでは24試合に出場して0得点0アシスト。潰し屋として名高い山口蛍のほうが、リーグ戦34試合に出場して3得点2アシストと攻撃への関与が多い。

サンペールが、現在の役割に加えて、攻撃陣とホットラインを形成してアシストや得点を重ねることができるようになれば、イニエスタ不在時の攻撃力を高められるだろう。ACLやJリーグを勝ち抜く上で、さらなる成長が求められる選手の一人だ。

また、マンチェスター・シティのMFダビド・シルバやチェルシーのFWペドロ・ロドリゲスらの夏の加入が噂されている。新たな大型移籍が実現した際、神戸がリーグ上位に位置し、ACLで生き残っていれば、クラブに新たな栄冠がもたらされる確率がぐっと高まるかもしれない。

どの国、どのスポーツでも、金に糸目をつけずに大物選手を獲得するクラブは「金満クラブ」と揶揄される。日本においては、平成時代のプロ野球界で“大物揃いの強すぎる巨人”と“アンチ巨人”という構図が出来上がり、野球界に大きなうねりができた。

将来、“強すぎる神戸”と“アンチ神戸”という構図が生まれれば、Jリーグにも新たなうねりが発生するかも知れない。ひいてはリーグ全体のさらなる活性化に寄与し、令和時代の日本サッカー史を語る上で欠かせない物語になるだろう。

神戸の今季のJリーグ初陣は2月23日。相手は、日本サッカー界を沸かせた中村俊輔や「キング・カズ」こと三浦知良が在籍する横浜FCだ。彼らがピッチで対峙する様を想像するだけで、ついワクワクしてしまう。