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ラグビー日本代表はワールドカップに間に合ったのか?開幕直前の課題と光明

2023 8/31 06:00江良与一
キックのミスが目立ったイタリア戦,ⒸJRFU
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ⒸJRFU

ラグビー人気定着へ正念場のジャパン

10回目を数えるラグビーワールドカップは、開催国フランス時間の9月8日(金)夜、フランスvsニュージーランドの優勝候補同士の激突で幕を開ける。我らが日本代表(以下ジャパン)の登場は大会3日目、10日(日)のチリ戦からだ。

ジャパンは前々回で南アフリカを破って世界に衝撃を与え、前回は予選プールを4勝無敗で駆け上がって史上初のベスト8に進出し、世界の強豪の一角(2023年5月に欧州6カ国対抗出場チームと南半球のザ・ラグビーチャンピオンシップ出場4チームにジャパンを加えた11カ国がハイパフォーマンスユニオンと認定)に数えられるようになった。

しかし、コロナ禍の影響もあって、国際試合から遠ざかったせいで、継続したチーム強化が思ったように出来ず、世界ランクも2019年の8位を最高に落ちる一方だ(8月28日現在14位)。

プロ野球の世界では「3年連続して初めて一人前」とも言われるが、それにならえば「3大会連続で好成績を収めて初めて強豪国」となろうか。2015年から数えて3回目となる今大会での成績が、今後のジャパン、ひいては日本におけるラグビーというスポーツの位置付けの鍵を握ると言っても過言ではない。

8強以上に進出できればラグビー人気は不動のものとなる可能性を秘めるが、惨憺たる成績で予選プール敗退などという事態になれば、「ブルームフォンテーンの悪夢(第3回ワールドカップでニュージーランドに17-145で大敗)」以降の暗黒期に逆戻りする可能性もある。

運命の分かれ道となる大会を目前にした国際試合6試合は、残念ながら1勝5敗と不安の方が強くなる結果に終わった。世界ランクが接近しているフィジー、イタリアには大差で敗れ、予選プールで対戦するサモアにも、危険なタックルでリーチ・マイケルが退場処分になったというアクシデントがあったとはいえ敗れた。

ミスが目立ったイタリア戦

イタリア戦は終始リードを奪われ、最後の最後に2トライ2ゴールを許して21-42のダブルスコアで敗戦。観戦していて一番ストレスと不安が募る結末となった。

点差を広げた要因はゴールキックの成功数だ。前半はSO李承信がトライ後のコンバージョンを1本、PGを1本外し、後半はSO松田力也が2本のコンバージョンキックを外した。これだけで9点のロスである。

仮にキックがすべて決まっていれば、後半37分までのスコアは30-28とジャパンがリードしていたことになり、試合の行方はそれこそ楕円球の気まぐれなバウンドで決まるような白熱したものとなっただろう。

サモア戦、フィジー戦で目立ったノックオンも、数は減ったとはいえ、攻めこんでいた場面で発生してチームのいい流れを自ら手放す結果となった。

オフロードパスが雑で、トライを生み出すどころか、相手に奪われて逆襲を食らう場面もあった。2019年のジャパンは2月から合宿をスタートさせてチームを熟成させ、それがギリギリのトライを生むオフロードパスの成功につながったが、今回のジャパンのスタートは6月半ば。メンバーの息がぴたりと合うようになるまでにはもう少し準備時間が必要だったのではないか。

FWのセットプレーに目を転じれば、相変わらずラインアウトが安定していない。イタリア戦でも2本マイボールを奪われた。特に後半相手ゴール前まで攻め込んだ際にスチールされたことが非常に痛かった。

モールで押し込むにせよ、押し込むと見せてBKに展開するにせよ、マイボールは確保することが大前提。決して数が多いとは言えない「必殺技」発動の機会を自ら手放してしまっては勝てない。

本番に向けて3つの光明

最後の最後で、結果が欲しかったイタリア戦で精彩を欠いたジャパン。ワールドカップ本番では強豪国のイングランド、アルゼンチンのどちらかに勝たない限り予選突破が難しいことに加え、格下とみられていたサモアとの前哨戦に敗れてしまったこともあって、悲観的な見込みを持たざるを得ないのだが、かすかながら光明もないわけではない。

まず第一に、初戦の相手が格下のチリであること。8月28日現在の世界ランク22位とジャパンよりも8位下のチリ相手なら、ミスの修正、チームの一体感の醸成にうってつけだし、チャレンジングなプレーも試せるだろう。

W杯やテストマッチで一度も対戦したことがなく、最終予選で有利とみられていたアメリカを下した勢いを考えると不気味な存在ではあるが、このチームに勝てないようでは、それこそハイパフォーマンスユニオンの名称は返上しなければなるまい。

第二に、第2戦のイングランドが本調子ではないこと。怪我や危険なタックルによる出場停止処分で、ジャパン戦に出場できない有力選手が続出しているのだ。

中でも、主将のSOオーウェン・ファレルの欠場は大きい。8月26日にイングランドの本拠地トゥイッケナムで行われたフィジーとのテストマッチは、ファレルの欠場の影響もあってか、同国史上初めて22-30で敗戦。ファレルに代わってSOを務めたジョージ・フォードのディフェンスが安定せず、たびたび密集近辺での突破を許していた。ジャパンにとっては付け入るスキのひとつである。

この試合ではバックスリーのディフェンスも今一つで、ナイカブラ、マシレワのフィジー出身WTBで勝負をかけたいジャパンとしては、相性の良さを活かしたいところだ。

第三に、ジャパンが意図的に手の内を隠した可能性があること。6試合を通じて、印象的なサインプレーはほとんど見られなかったし、長いキックパスなどの「飛び道具」もほとんど使用しなかった。シェイプアタックで近場を攻めて、機を見て外に展開というパターンばかり続けたのだ。

NHKで放映されたイタリア戦の解説を務めた五郎丸歩氏はしきりに「意図が見えない攻撃」という言葉を繰り返していたが、確かに悪く言えば、球をもらったプレーヤーが右往左往しているだけで有効なゲインをしていない場面が目立った。

単なる力不足と言われればそれまでかもしれないが、多彩な攻撃プランを持ち合わせていることで知られるトニー・ブラウンコーチの指導を仰いでいるジャパンのBK陣が、何も武器を持たずにW杯に臨んでくるとは考えにくい。あえていろいろなムーヴメントを封印し、安定した球出しのためのスキルとフィットネスの向上を図ったのだと信じたい。

不安と希望が交錯する大会直前の2週間は、ラグビーファンにとっては一番幸せな期間かも知れない。大会が始まってしまえば、そこで起こった現実にいやでも向き合わねばならないからだ。ジャパンの現実が、希望の方に大きく傾いてくれることを期待して本番を待ちたい。

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