「スポーツ × AI × データ解析でスポーツの観方を変える」

IOCバッハ会長の「独裁色」強まる再選、五輪歴代会長は全て欧米出身

2021 3/23 11:00田村崇仁
トーマス・バッハ会長Ⓒゲッティイメージズ
このエントリーをはてなブックマークに追加

Ⓒゲッティイメージズ

対抗馬なく、圧倒的支持で2025年まで続投

国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(67)=ドイツ=が3月10日、オンライン形式によるIOC総会で実施された会長選に唯一立候補し、賛成93、反対1(棄権4)の圧倒的な支持を得て再選した。

対立候補はなく、無風の信任投票で承認されると「感無量だ」と涙ぐみ、言葉を詰まらせる場面もあった。2期目は東京五輪閉幕翌日の8月9日から2025年までの4年間で、再任は1度のみ認められている。当面の課題には新型コロナウイルス禍で開催可否を巡って「逆風」が吹く東京五輪と2022年北京冬季五輪を挙げた。

弁護士でアディダスにも勤務した交渉術

弁護士資格を持つバッハ氏はフェンシングの1976年モントリオール五輪金メダリスト。スポーツメーカー大手アディダスのプロモーション部門に勤務した経験も生かしてIOCを実務面で支え、東京五輪開催が決定した2013年9月のIOC総会で第9代会長に就任した。

任期8年の1期目は2014年ソチ冬季五輪を舞台にしたロシアの国ぐるみのドーピング・スキャンダルや2016年リオデジャネイロ、2020年東京五輪招致に絡んだ買収疑惑で対応に追われる一方、40項目の改革指針「五輪アジェンダ2020」を掲げ、開催都市の負担軽減や追加種目の採用、男女平等の推進、史上初となる難民選手団の結成に注力。弁護士ならではの交渉術で反対派を巧みに封じるバッハ流の手法で「独裁色」を強める。

歴代9人の会長はドイツ人のバッハ氏を含めて欧州か米国出身。近年のIOC会長選を振り返ると、ライバル不在で「1強」のバッハ長期政権の盤石ぶりが浮き彫りとなった。

歴代IOC会長

サマランチ氏が下馬評覆して当選

1980年、西側諸国のボイコットで揺れたモスクワ五輪のIOC総会でキラニン男爵(アイルランド)の後任として、7代目会長に選出されたのがフアン・アントニオ・サマランチ氏(スペイン)だった。

下馬評で優位だった西ドイツ・オリンピック委員会元会長のウィリー・ダウメ氏(1972年ミュンヘン五輪組織委員会会長)を破り、商業主義路線へとかじを切って「五輪革命」を起こしたといわれる21年の歩みは有名だろう。

1984年ロサンゼルス五輪では東側諸国の「報復ボイコット」を阻止できなかったが、テレビ放送権料やスポンサーからの協賛金など民間資本導入で五輪に新時代を切り開いた。プロ選手の参加にも門戸を開き、五輪はトップアスリートの祭典に成長したが、繁栄と同時にひずみも生じ、1988年ソウル五輪では陸上男子100メートルのベン・ジョンソン(カナダ)が薬物違反で金メダルをはく奪される象徴的な事件が起こった。

五輪開催立候補都市による招致合戦は過剰な接待やわいろでエスカレート、2002年ソルトレークシティー五輪招致スキャンダルにも発展した。

5人立候補の激戦制した整形外科医のロゲ氏

サマランチ氏の後継者選挙は、2001年のIOC総会(モスクワ)で決まった。

立候補したのはジャック・ロゲ理事(ベルギー)、アジア出身者が会長になる意義を唱えた金雲龍理事(韓国)、ディック・パウンド委員(カナダ)、初の女性候補となったアニタ・デフランツ副会長(米国)、パル・シュミット委員(ハンガリー)の5人。投票は過半数の票を獲得する者が出るまで、最下位を除いて繰り返す無記名方式で行われ、サマランチ会長の支持を受けた理知的な整形外科医のロゲ氏は、1回目から大きくリードし、2回目に過半数を上回る59票を得て第8代会長に就いた。

ヨット選手として3大会連続で五輪にも出場。ベルギー出身の会長は第3代のアンリ・ド・ベレ・ラトゥール会長以来となった。「TOKYO」と東京五輪の開催地決定を発表した姿を覚えている人も多いだろう。

アジアから初の会長を目指した金雲龍氏は、前日にIOC倫理委員会から選挙違反の疑いを指摘されたことが響いて1回目21票、2回目23票にとどまった。初の女性会長を目指したデフランツ氏は1回目に落選。IOCのマーケティング委員長を務めていたパウンド委員、シュミット委員も及ばなかった。

第9代は6人立候補、バッハ氏が圧勝

2期12年の任期を終えたロゲ氏の後任選挙は2013年のIOC総会(ブエノスアイレス)で開かれ、第9代会長に「ポスト・ロゲ」の最右翼とみられていたバッハ副会長が選ばれた。ドイツから初の会長となった。

会長選にはセルミャン・ウン副会長(シンガポール)、リチャード・キャリオン財務委員長(プエルトリコ)、「鳥人」の異名を取る陸上男子棒高跳びのセルゲイ・ブブカ理事(ウクライナ)、デニス・オズワルド委員(スイス)、呉経国理事(台湾)の計6人が立候補。1回目で呉理事が落選して5人に絞られた2回目の投票で、バッハ氏が過半数の49票を獲得して圧勝した。

歴代IOC会長の出身地域は欧州8人と米国1人。今回の会長選で対抗馬が出なかったのは、新型コロナウイルス禍の影響で五輪のブランド価値が揺らぎ、五輪存続が危ぶまれている厳しい状況もあるとの見方も出ている。

バッハ会長が2024年パリ、2028年ロサンゼルス両五輪の同時決定に踏み切った通り、近年は開催都市に手を挙げる都市も激減し、難題が山積。そんな中でも2018年平昌冬季五輪では韓国と北朝鮮の融和を演出するなど「政治」との距離も近い。 2020年3月には新型コロナ禍の窮地で当時の安倍晋三首相との電話会談で史上初となる五輪延期を決めた。

元は欧州貴族サロンだった組織が最近はアスリート出身などメンバーも大きく入れ替わり、ご意見番やうるさ型の長老も減っている中、こうした困難な時代でリーダーシップを任せられるのは事実上バッハ氏しかいない現状が今回の「無風選挙」を象徴している。

【関連記事】
五輪聖火リレーの主な著名人一覧、辞退続出や「島根の乱」で波乱含み
東京五輪のトラブル史、森喜朗氏発言に続く女性侮辱騒動で大混乱
東京五輪、海外観客見送りで「安全な大会」は本当に実現するのか

おすすめの記事