開閉会式の統括責任者、佐々木宏氏が辞任
東京五輪・パラリンピックがまたも大打撃に見舞われた。
大会組織委員会の会長だった森喜朗氏が女性蔑視発言で2月に引責辞任した騒動も冷めやらぬ中、大会のハイライトとなる開閉会式の企画、演出の統括役だったクリエーティブディレクターの佐々木宏氏が、式典に出演予定だったタレントの渡辺直美さんの容姿を動物に例えて侮辱する内容の演出を関係者にLINE(ライン)で提案していたことが判明。3月18日に謝罪文を公表し、大会4カ月前に前代未聞の引責辞任となった。
電通出身でテレビCMなどでも活躍する佐々木氏は、人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」のマリオの姿で安倍晋三前首相が登場した2016年リオデジャネイロ五輪閉会式、白血病で長期休養していた競泳の池江璃花子を起用した2020年7月23日の開幕1年前行事の演出を担当。後任の人選は早急に進めるが、相次ぐ不祥事で世論の逆風やさらなる中止論の台頭も懸念され、開催準備にさらなる大きな打撃となりそうだ。
東京五輪を巡るトラブルの歴史を振り返ると、ガバナンスを見失った組織委の大混乱ぶりが見えてくる。
公式エンブレムは盗作疑惑で白紙撤回に
2015年7月、大会公式エンブレムを巡ってはアートディレクターの佐野研二郎氏の作品に一度決まったが、ベルギーの劇場ロゴに似ているなどと盗作疑惑が生じて2カ月近くで白紙撤回に追い込まれた。
電通出身の元職員が主導し、応募資格を一部有力デザイナーに限定した選考は「閉鎖的」との声も上がった。応募資格を大幅に緩和した新たな選考では最終候補4作品を公開し、国民の意見を募集するなどオープンな過程を重視。公募して2016年4月に野老朝雄氏の作品「組市松紋」に決定した。
新国立競技場は総工費膨らみ、白紙撤回
新国立競技場の建て替えでは当初デザインの総工費が見積もりの1300億円から2651億円に膨れ上がり、2015年7月に安倍晋三首相が世界的な建築家でイラク出身の故ザハ・ハディド氏による当初計画案を白紙撤回。一から練り直しとなった。
新計画では業者選定前に提案内容を公表する異例の手続きをとり、隈研吾氏のデザインが採用された。総工費は1569億円に抑えた。
「世界一コンパクト」から「広域開催」に
東京五輪は招致段階で「世界一コンパクト」な計画を表明したが、2014年6月には施設整備コストの高騰に対する懸念から、会場計画の大幅な見直しを決定。バスケットボール、バドミントン、セーリングの3競技の会場建設を中止し、選手村から半径8キロ以内に85%の会場が収まるコンパクトな運営方針が早々に破綻した。
既存施設の活用でコストを削減するため東京都外でも1道8県が会場となる広域開催となった。
マラソン、競歩の札幌移転「合意なき決定」
国際オリンピック委員会(IOC)が2019年10月、暑さ対策のため東京五輪のマラソンと競歩の札幌開催計画の検討に入ったと表明。11月にIOC、東京都、大会組織委員会、政府の4者協議が開かれ、札幌開催で決着した。
反発していた小池百合子都知事は協議の場で「合意なき決定だ」と述べ、都が移転で生じる費用を負担しないことが確認された。マラソンは市中心部の大通公園を発着点に、1周目が約20キロ、2、3周目が約10キロの変則的な周回コースで実施。競歩は札幌駅前通を往復する。
札幌移転ではIOCにも約20億円を負担させることになった。
新型コロナで史上初の延期
2020年3月24日、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、安倍首相とIOCバッハ会長との電話会談で東京大会の史上初となる延期が決定。安倍首相は「遅くとも来年夏までに」と1年以内の開催を明言した。21年7月23日開幕が決まった。
森喜朗氏の女性蔑視発言、後任人事も白紙に
2021年2月3日、日本オリンピック委員会(JOC)の評議員会で、森喜朗会長(当時)が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」「組織委の女性はわきまえている」などと発言。翌日に謝罪会見を開いたが、居直ったような態度で国内外から批判が高まり、「多様性と調和」を大会ビジョンの一つとする東京五輪・パラリンピックの組織委トップによる女性蔑視発言で理念と現実の隔たりが浮き彫りになった。
ボランティアの辞退者が相次ぎ、スポンサーも声を上げて国際的な騒動に発展。後任人事を巡っては、日本サッカー協会元会長の川淵三郎氏に対する森氏の後継指名は「密室人事」とされて白紙に。開幕まで半年を切った時期のトップ交代で新会長に橋本聖子氏が就任した。
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