欠場もあり得た中上の怪我の悪化
日本GP直前に中上貴晶について2つの発表があった。まずはHRCと1年契約更新し、2020年もLCRから引き続きMotoGPに参戦すること。そして今シーズンは日本GPが中上にとって最終戦となり、残り3戦はヨハン・ザルコが代役で参戦することである。
良いニュース、悪いニュースが発表されたわけだが、残り3戦に出場しないのにはわけがある。MotoGPクラス2年目となる今シーズン、中上は常にトップ10圏内を争っていたし、イタリアGPでは自己ベストとなる5位を獲得するなど好調をキープしていた。
しかし、第8戦オランダGPでバレンティーノ・ロッシの転倒に巻き込まれ高速でクラッシュし、足と肩を負傷した。特に肩へのダメージが大きく、中上は痛み止めを服用しながらレースに参戦した。チームからの手術の勧めは第13戦サンマリノGPからあったというが、1戦1戦痛みをごまかしてきた肩が限界に達していた。ツインリンクもてぎの後半セクションは肩に負担の大きいコーナーが続くので、レース欠場も視野に入れていたという。
雨を味方に力走した予選
予選日はあいにくの雨。転倒のリスクが急増する雨は歓迎されるものではないが、怪我をしている中上にとって「恵みの雨」だった。雨の中で行われたフリー走行3は体への負荷が少なく、痛みや痺れが軽減されたという。そして中上は決勝を走ると公言した。
予選はドライタイヤでの走行となるも、路面は完全なドライではない難しいコンディションであった。Q2進出をかけて行われるQ1で、チームメイトのカル・クラッチローとトップタイムを交互に更新していく好走を見せた。上位2名に入ればQ2進出となるQ1で惜しくも3位でセッションを終えたが、予選でのパフォーマンスは驚くべきものであった。母国日本で巧みなドライビングテクニックを魅せてくれた。
ただ、問題は決勝だ。MotoGPの決勝レースは約45分である。痛みと痺れが酷く、3周が限界と話していた中上にとって、途方もない距離である。しかし中上は前向きだった。Q1ではQ2進出がかなわなかったものの、好走を見せた。トップ10を目指せるポテンシャルが自分にはある、そして母国では色々なモチベーションがプラスになると前向きにコメントをしていた。
大観衆の中で完走を果たした中上 来シーズンへ向けて休養
決勝は厳しいコンディションの中、粘り強く走り切り、16位でフィニッシュした。何度も欠場しようと考えたほど怪我の悪化に苦しめられた状況でMotoGPクラスのレースを完走したことはすごいの一言しか出ない。
レース中も痺れが酷く、途中リタイアを考えていたという。しかし大歓声、チームの支えが中上の力になったという。
「旗を振ってくれたり、声援を送ってくれているのを見て、あきらめずに走り切れました。今週末、応援してくれたファンのみんなに感謝の気持ちでいっぱいです。そして、チームもここ数戦、ずっと僕を気にかけて支えてくれました。僕がベストを尽くしているのをわかっていてくれたので、チームにも感謝したいです」
レース前から好成績が望めない苦しい状況でも、特別な母国でのレースを走り切ったのだ。
このレースをもって今シーズンを終了する中上は肩の手術、リハビリに時間を充てる。医者の見立てでは完治に3ヶ月かかるそうだ。手術は今週に実施する予定で、約1ヶ月後リハビリを開始し、来年2月にマレーシアのセパンで行われるプレシーズンテストでの復帰を目指す。
好成績も出し、常にトップ10でフィニッシュしていた前半、そして怪我に苦しんだ後半戦と浮き沈みの激しいシーズンとなった2019年を60点と自己採点した。
ただ今年、見せた可能性は来シーズンさらなる活躍を期待させるものとなった。手術の成功と、さらに強くなって帰ってくることを願っている。