今年の天皇賞(春)は外回り⇒内回りという特殊なレース
2006年の外回りコース新設以降、阪神競馬場で行われた芝3200m戦は1レースしかない。それが今年2月に行われた古馬3勝クラスの松籟Sだ。従来は京都芝2400mのレースなのだが、JRAとしても天皇賞(春)の前に、初めてのコースでレースを確認する意味合いがあったのだろう。JRAの平地条件戦で3000m以上の距離のレースが行われたのは2000年以来だそうだ。
京都コースで行われる芝3000m以上のOP戦には菊花賞、万葉S、天皇賞(春)の3つのレースがある。この3レースはいずれも1周目、2周目ともに外回りコースを使用するのだが、阪神競馬場で行われる前哨戦の阪神大賞典は1周目、2周目ともに内回りコースを使ってのレースになる。
それに対して、今年の阪神施行の天皇賞は1周目が外回り、2周目が内回りという非常に特殊なレース。このコースでの過去データは今年2月の松籟Sしかない。松籟Sの1レースでどこまでレース傾向を分析できるか分からないが、まずは外回りの長い直線を使っての決め手勝負という天皇賞のレースイメージは頭から消したうえで、それぞれのレースラップを比較してみよう。
レース中盤のペースが展開のカギを握ることに

OP特別の万葉Sはスロー傾向の強いレースだが、スタートから外回り3コーナーへ向かう天皇賞の最初の1000mは極端に遅い流れになることは少ない。フィエールマンが勝った昨年の63秒0は、良馬場としては異例の遅いペースだった。菊花賞や万葉Sは次の1000mでペースが落ちるが、天皇賞は例年、1400m通過付近まではペースが落ちず、ここを過ぎてようやく12秒台後半のラップが続くようになる。
イメージとしては3・4コーナーの下りで勢いがついて1周目の直線へ。隊列が決まり、1コーナーあたりでようやくペースを落とせる感じだろう。過去10年(良馬場の9回)で、ラスト1000mの平均が59秒8、残り800mからは11秒台後半のラップも多くなり、そのまま長い直線での叩き合いになる。鋭い決め手というより、長く速い脚を持続できる馬でないと上位争いは難しいレースといえるだろう。
これに対して、スタートしてすぐに内回りの3コーナーに向かう阪神大賞典では、12秒台半ばのラップが坦々と続くケースが多い。各馬ともに内回りを意識したポジション取り、仕掛けになるので、ラスト1000m付近から12秒前後のラップが最後まで続く厳しいレースが繰り広げられてきた。
さて、こうした傾向を踏まえて今年の松籟Sを振り返ってみよう。先手を取ったのは2番人気のディアスティマだったが、1周目の3コーナーで外から内の先行2頭を交わして先頭に立った。外回りでコーナーまでの距離もあり、前目のポジションを取りたい馬には動きやすい。結果として最初の1000mは59秒4と速くなったが、京都コースのような下りがないので、1周目の直線に向いてすぐにペースを落とすことができた。次の1000mは63秒7。1周目内回りの阪神大賞典とは違って、レース中盤は息が入れやすくなるようだ。
そして、ラスト1200mからは11.9-11.9-11.9-12.0-11.5-12.6の速いラップ。結果、先行2頭の決着になった。京都の天皇賞と同じように、スタートから外回りに向かう1周目は先行争いでラップが速くなる可能性が高いが、そのままペースの落ちない京都コースと違って、阪神コースは1周目の直線でペースが落ち着くことが十分に考えられる。ゴール前に急坂があるのも、ペースを落としやすい要因だろう。ここで隊列が決まってしまうと、差し・追い込み勢が先行馬の術中にはまってしまう危険性もありそうだ。
阪神内回り、勝利をつかむなら4角4番手以内
念のため、今年の天皇賞と同じ阪神の内回りコースで行われる阪神大賞典の4角ポジション別成績を確認しておこう。

過去10年の勝ち馬は全て4角4番手以内。連対率では4番手以内28.8%に対し、5番手以降9.3%と約3倍の開き。残り1200mから速いラップが続くレース傾向から予想はできたが、やはり勝負所で前目のポジションが取れていないと好勝負は難しい。1周目が外回りの天皇賞では、中盤でペースが急激に落ちる可能性があるので、前半控えるタイプの馬にとっては、騎手のポジション取り、仕掛けのタイミングが例年以上に重要になりそうだ。
楽しみなのが、松籟Sを鮮やかに逃げ切ったディアスティマと北村友騎手のレースぶり。GI初挑戦で厳しい戦いになるだろうが、この阪神芝3200mを攻略した経験があるのはなによりの強み。馬券以上に、どんなラップを刻むのか興味深い。松籟Sのように中盤での急激なペースダウンに成功すれば、4角好位勢同士の決着も十分にある。有力馬をかく乱する走りで楽しませて欲しい。
ライタープロフィール
高槻とおる
グリーンチャンネルで結果分析、レース分析番組の構成作家を担当していた。現在は経営者取材などライターとして幅広く活躍中。ラップを長年研究しているが、実は馬券はパドック派。
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