妹クロノジェネシスとの対決への可能性
サマー2000シリーズに組み込まれるのが違和感すらあるGⅡ札幌記念は今年もサマーシリーズ転戦組は敗れ、GⅠ常連組が馬券圏内を独占した。
逃げたのは函館記念4着トーラスジェミニだが、レースを作ったのは番手にとりついた宝塚記念6着ラッキーライラック。前半1000mは折り合いに専念、トーラスジェミニにマイペースを刻ませ、前半1000m60秒3。函館記念が58秒8だったことを考えればやや落としすぎたぐらい。
レースが動いたのは、3角入り口の残り800m標識をすぎたあたり。ラッキーライラックが仕掛け、トーラスジェミニを動かした。ここからゴールまで11.7-11.7-11.6-11.9とロングスパート。最後までラップが落ちないハイレベルな攻防、一旦先頭のラッキーライラックの外からやってきた安田記念4着ノームコアが内の同馬を飲み込んだ。
道中は枠なりに中団後ろのインに潜め、ラッキーライラックが仕掛けたロングスパートに馬なりで追走しながらコーナリングで順位を上げ、最後の4角出口で美しく斜め外へ持ち出し、進路を確保、末脚を全開させた。ため息の出るような横山典弘騎手のレース運び、4角出口の抜け出し方は芸術ものだった。
ノームコアも戦前は距離適性にくわえ小回りにも疑問はあったが、そんなものはどこ吹く風。洋芝、コーナーが大きな札幌競馬場はむしろ得意なのではなかろうか。これまで1800~2000mは紫苑S勝ちこそあるもののGⅢでも敗退していただけに札幌記念で結果を出したのは大きい。
牝馬も秋は大きなレースは2000m以上であり、これで先を展望できる。ひとつ年下のグランプリホース・クロノジェネシスとの対決もあるかもしれない。

変幻自在な横山武史騎手
2着は久々好走の宝塚記念15着ペルシアンナイト。相手をノームコアと決め打った大野拓弥騎手らしい騎乗で同馬には勝負所で遅れながらも最後まで伸びてラッキーライラックを捕らえた。
終わってみれば、ハービンジャー産駒のワンツーフィニッシュで残り800mからのロングスパート合戦がフィットした印象。そのロングスパートを作ったラッキーライラックは、一旦先頭も3着。欧州馬場に近かった宝塚記念での疲労を考えれば、わずか2ヵ月でよく立て直したのではないか。
それでも道中で引っかかる仕草を見せるあたり、本調子ではなかったと察する。自らが作ったロングスパートに早々バテる馬ではなく、ここを使ったことで上昇カーブを描ければまだまだ活力は十分ある。勝負に行かず無理をせず外を回って4着ポンデザールよりも3勝クラス馬ながら、5着にきたイェッツトをとりあげる。道中はさすがにペースが合わないとみて下げ、ロングスパートに呼応せず、3、4角の中間では一旦最後方、そこから最後は伸びた。
合わないペースに付き合わず、厳しいペースアップにひと呼吸遅らせ、ノームコアの真後ろから同馬が抜けたスペースを突いてくる、北海道シリーズで変幻自在な騎乗をみせる横山武史騎手らしい感性の騎乗だった。父が魅せたレースではあったが、せがれも負けていなかった。
馬は中山3勝、上がり時計を要する小回り馬場に高い適性があり、そこも好走の要因だろう。来月はその中山開催だけにすぐに3勝クラスを勝ちあがる可能性は高い。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。