米ツアーのパワーゴルフ化
米ツアー選手たちの飛距離アップが加速し続けている。昔は2オンが難しかったパー5で楽々2オンするようになり、元々パー5のホールをパー4にし、18ホールパー72をパー71や70にして開催する大会も珍しくなくなってきた。
パー72設定を守り続ける場合は、コース改修をしてコースの距離を伸ばして対応。マスターズでは距離を伸ばすためにコース改修を繰り返している。今年は計35ヤード伸ばし、7,510ヤードにして開催された。ただ、コース改修には限界があるため、マスターズでは選手の飛距離増対策として「飛ばないボールで統一」というルールの採用も検討されている。
では、実際に米ツアー選手たちの飛距離はどの程度伸びているのだろうか。2021年のドライビングディスタンスのツアー平均は296.2ヤード。20年前(2002年)は279.5ヤードなので約17ヤード伸びている。
ドライバーだけが飛ぶようになったのではなく、フェアウェイウッドやアイアンも飛ぶようになったことを考えると、大会側がパー数を小さくしたり、コース距離を長くする改修といった策を講じ続けることも頷ける。
米ツアーの飛距離三要素
飛距離はボールスピード(初速)、バックスピン量、打ち出し角の三要素によって決まる。ボールスピードは速ければ速いほど飛距離が出る。バックスピン量は他の二要素(ボールスピードと打ち出し角)次第で適正値が変わり、打ち出し角も他の二要素(ボールスピードとスピン量)次第で適正値が変わる。
米ツアーの飛距離は、この三要素がどのように変化しながら伸びているのだろうか。TRACKMAN(トラックマン)によるティーショットの飛距離三要素の記録が開始された2007年から昨年まで、15年間のドライビングディスタンスと飛距離三要素のツアー平均データを見ていきたい。
ドライビングディスタンスが15年間で約8ヤード伸びた。ボールスピードが約2.3m/s上がり、バックスピン量が約300減り、打ち出し角は約0.3°下がった。打ち出し角の変化はほぼないと言えるものなので、8ヤードの飛距離増の理由はボールスピードとスピン量の変化にあるようだ。
ボールスピードが上がった理由としては、ギアの進化に加えて、選手のフィジカル強化も挙げられる。フィジカルの強さが反映されるヘッドスピードを調べてみると、2021年のツアー平均が51.15m/sで、2007年のツアー平均が50.23m/sだった。15年間で約0.9m/s上がっている。
バックスピン量は減った方が飛距離が出るのだが、減った理由はギアの進化だけでなくボールの影響が考えられる。ボールのテクノロジーが進化し多層構造になった。グリーンでボールを止めるアイアン時のバックスピン量は確保しつつ、ドライバー時にはバックスピン量が抑えられるボールの開発が進んだのだ。
2007年時点では、グリーン上で止められるバックスピン量を得られるボールの場合、ドライバー時の“やや多めの約2800rpm”はやむをえなかった。それが現在では、飛ばすことも止めることも犠牲にしなくてよいボールが使えている。
フィジカル、ギアの進化
昨今の飛距離増は選手たちのフィジカル強化とギアの進化、両方の影響がある。よりゴルフトレーニング関連のエビデンスが豊富になり、ギア開発のための技術が進歩する限り、飛距離増は進み続けるだろう。
2007年にはドライビングディスタンス300ヤード超えの選手は18人しかいなかった。それが2021年は61人。米ツアーでの「300ヤード以上が当たり前」の風潮は、今後も強まりそうだ。
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