USTマミヤ製からフジクラの最新作に変更
国内の女子ゴルフツアーは先週の「ダイキンオーキッド」で2022年シーズンが開幕。西郷真央がうれしい初優勝を挙げた。その大会で私が注目したのは、昨シーズンの賞金女王で東京五輪の銀メダリストでもある稲見萌寧がシャフトを変更していたことだった。
コロナ禍で2020年と21年が統合された昨シーズンに9勝を挙げた稲見が使っていたのはUSTマミヤの「the ATTAS」(ジ・アッタス)だった。それが「ダイキン」からはフジクラの最新作「SPEEDER NX」(スピーダーNX)に替わっていた。
ちなみに「the ATTAS」は最新作からみると3代前の製品。それを使い続けていたことは、いかに信頼を寄せていたのかがわかる。
それが、なぜ替えるという選択をしたのか。ちなみにフジクラは、2020~21年シーズンの全てのトーナメントでドライバーに挿しているシャフトの使用率が1位。平均は45.6%で、7大会では50%を超えるなど、ツアーに出場している選手の約半分が使っていたことになる。
勝利数は開催された52大会の、こちらも半分に迫る「23」。「SPEEDER NX」に発売開始された昨秋以降の時期で見ると、11大会で8勝と驚異的な勝率となる。シーズンが変わっても「ダイキン」では優勝した西郷をはじめ、2位の黄アルム。3位の西村優菜までがフジクラのシャフトを使っていた。(モデルは西郷が「VENTUS BLUE」。黄と西村がSPEEDER NX」)。ドライバーでの使用率でも49.1%で他を圧倒し、ここ数年の日本女子ツアーでの「絶対王者」ぶりは相変わらずだ。
好調時はギアを替える好機
このデータを見ると一般のアマチュアは「良さそうだから、使ってみようかな」という気になるだろう。とはいえ賞金女王となり、銀メダルも獲得した稲見がなぜ絶頂期ともいえるタイミングでシャフトを替える必要があったのか、と思うかもしれない。
実は、好調の時は新しいギア(シャフト、クラブ、ボール)を試す絶好のタイミングなのだ。調子がいいということは、スイングも安定して、感覚も研ぎ澄まされている。そのため新しいギアを試した時に飛距離、弾道、スピン量や操作性などが現在使っているモノと比べてどうか。理想の数字や感触を得られるかといった比較がしやすい。ちなみに稲見は「風に強い球が打てる」ことが変更の決め手になったのだという。
それがアマチュアにありがちな、調子が悪いから新しいギアを試すというやり方だと、さらに調子を落とした際にその原因がスイングや体調などゴルファーの側にあるのか。あるいはギアが合わなかったのかが突き止めにくくなってしまう。
なので、稲見がこのタイミングでギアの変更に踏み切ったのは正しいやり方なのだ。開幕戦のデータを見ると、昨シーズンも75.96%で10位の安定性を誇ったフェアウェーキープ率が出場選手で4位となる83.92%を記録。特に3日目はパー3以外の14ホール全てでフェアウェーをキープして初日61位のから10位まで上げてフィニッシュ。2戦目の「明治安田生命レディス ヨコハマタイヤ」では初日、2日目と精度を落としたものの、最終日は14ホール中の10ホールでフェアウェーをキープした(順位は32位)。
自分に合ったシャフトに替えるメリット
ところで、シャフトを替えることはプロや上級者の世界のことで、一般アマチュアには関係ないことと思っているゴルファーも多いのではないだろうか。よく「自分に合わせたシャフトに替えるのはもっと上手になってから」という声を聞くが、どのレベルのゴルファーにもメリットのあることなのだ。
例えば、スライスに悩んでしょっちゅう林に打ち込んでしまう人が曲がり幅を半分に収められるようになると、ボールが飛んだ距離が変わらなくても2打目はそれまでよりもグリーンに近い場所から打てることになる。
技術やパワーで飛距離を10ヤード、20ヤードも伸ばすのは相当な苦労が伴うが、グリーンまでの残り距離が短くなり、それまでよりも短いクラブで打てる。または林から出すだけだったのがグリーンを狙えるようになれば飛距離が10~20ヤード伸びたのと同等の効果を得られることになるというわけだ。
また最近の女性用のクラブは、かなり非力でヘッドスピードが遅い人でも振れるスペックになっているので、それに物足りなくて男性用のクラブを使うケースも見受けられる。
だがやはり男性用と女性用では想定している身長や体重、パワーなどが違うので、逆に振り切れなくなる可能性が高い。なので、「もっと飛ばしたい」「ショットを安定させたい」と思っている女性こそ自分に合わせたシャフトにすることで得られるメリットは大きい。
稲見はドライバーのヘッドは昨年までの「マーベリック サブゼロ」(キャロウェイ)のままでシャフトだけを替えた。最近のドライバーは弾道調性機能、いわゆる「カチャカチャ」が付いているモデルならシャフトを替えてみて、今ひとつと感じたら元に戻すことも簡単にできる。
使っているドライバーが気に入っているけど、もう少し飛距離を伸ばしたい。あるいは曲げ利幅を少なくしたいと思うなら、まずはフィッティングを受けてみることがお勧めだ。
《ライタープロフィール》
森伊知郎(もり・いちろう)横浜市出身。1992年から2021年6月まで東京スポーツ新聞社でゴルフ、ボクシング、サッカーやバスケットボールなどを担当。ゴルフではTPI(Titleist Performance Institute)ゴルフ レベル2の資格も持つ。
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