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宇野昌磨、北京五輪の団体トップバッターの大役も自己ベストで成長証明

2022 2/6 06:00田村崇仁
宇野昌磨,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

コーチ陽性も動じず、北京五輪でSP2位発進

絶大な信頼を寄せるランビエル・コーチが、北京冬季五輪に向けてスイス出国前に新型コロナウイルス検査で陽性判定となる不測の事態にも動じなかった。フィギュアスケート男子で24歳の宇野昌磨(トヨタ自動車)は、2月4日開幕した北京五輪の団体で男子ショートプログラム(SP)のトップバッターの大役として登場し、2度目の舞台で成長を証明した。

冒頭の「完璧」といえる4回転フリップからトーループの2種類の4回転ジャンプに成功するなど3季ぶりに自己ベストを更新する105.46点をマーク。世界選手権3連覇中のネイサン・チェン(米国)に次ぐ2位発進で、初メダルを目指す日本チームに勢いを付けた。

初出場だった前回の2018年平昌冬季五輪で、個人種目の銀メダルに輝いてから4年。前回も団体で日本チームの先陣を切り、SP首位で発進した。4回転のフリップ、トーループを降り、技術点も演技点もトップの103.25点をマークし、世界選手権3度優勝のパトリック・チャン(カナダ)やグランプリ(GP)ファイナル王者のチェンらを抑えて堂々たる五輪デビューだった。

一時は引退が頭をよぎるほどの「どん底」期を乗り越え、アスリートとして尊敬する羽生結弦(ANA)の背中を追うスケーターは、新コーチと深い絆にも支えられて五輪の銀盤に戻ってきた。

演技後は仲間へ右手で軽くガッツポーズ。五輪チャンネルによると、指導する元世界選手権王者のランビエル氏(スイス)は「彼はナンバーワンになれる資質と才能がある」と、2度目の祭典で個人種目でもさらに輝く可能性を信じている。

失敗恐れず、フリーでは4回転5本に挑戦

勝負のシーズンとなった今季、宇野は豊富な練習量を自信に変えてジャンプで失敗を恐れず、過去最高とも言える質の高さに仕上げてきている。

フリーでは4種類の4回転ジャンプ5本を跳ぶ、高難度の構成に挑戦。あえてなぜ自らに高いハードルを課すのかといえば、「世界トップを目指す」という強い覚悟にほかならない。

ランビエル・コーチと課題を模索する中で導き出した答えが「4回転ジャンプ」だった。失敗のリスクも覚悟しながら、過去最高難度の成功への鍵は、冒頭から跳ぶ4回転ループと続く4回転サルコーの出来だ。

2021年11月のNHK杯で3季ぶりのGP制覇。心技体全てで一回り成長したスケーターが苦境を乗り越え、新境地を切り開こうとしている。団体での4回転フリップの出来は高さ、幅、着氷と最高レベルのジャンプだった。

5歳から師事の山田、樋口両コーチから卒業

スケートを始めたのは5歳の時。地元名古屋のスケートリンクで、後に五輪銀メダリストとなる浅田真央さんに声をかけられたことがきっかけだった。そんな宇野は2018~2019年シーズン終了後、さらなる飛躍を期し、5歳から師事した山田満知子、樋口美穂子両コーチの下を離れる決断を下した。

しかし後任コーチが見つからず、一時はトンネルに迷い込み、苦闘が続いた。コーチ不在で臨んだ2019年のグランプリ(GP)シリーズのフランス杯では転倒が続き、シニア5年目で初めてGPの表彰台を逃す8位。

暗中模索の中、光明を与えてくれた「救世主」がランビエル氏だった。表現力を重視して宇野の持ち味である「感性」を生かした滑りやジャンプも尊重し、管理型ではない指導法。リンクに立つ宇野に笑顔が戻った。

2度目の五輪で新たな時代の扉を開けるか

北京五輪の男子シングルは、過去に例を見ないハイレベルな競演となる可能性が高い。

羽生が前人未踏の4回転半ジャンプ(クワッドアクセル)に挑み、チェンはフリーでルッツ、フリップ、サルコー、トーループの4種類の4回転ジャンプを5本組み込む構成だ。昨季の世界選手権2位で18歳の鍵山優真(オリエンタルバイオ・星槎)は3種類の4回転で勝負する予定。そして2度目の五輪でさらなる飛躍を期す宇野。

彼らの氷上での激突は新たな時代の扉が開かれる予感に満ちている。

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