NHK杯で3季ぶり2度目の自己ベストV
表彰台の中央に立ち、久しぶりに会場を埋めた観客の拍手に包まれても満足した様子は全くなかった。フィギュアスケート男子の2018年平昌冬季五輪銀メダリスト、23歳の宇野昌磨(トヨタ自動車)が強さと輝きを増して氷上に戻ってきた。
グランプリ(GP)シリーズ第4戦、NHK杯は11月13日、東京・国立代々木競技場で行われ、男子シングルのフリーで宇野がショートプログラム(SP)に続いて1位の187.57点をマークし、自己ベストの合計290.15点で3季ぶり2度目の復活優勝。2位のビンセント・ゾウ(米国)に29.46点の大差をつけ、第1戦のスケートアメリカ2位と合わせてシリーズ全6戦の上位6人によるファイナル(12月・大阪)進出を3年ぶりに決めた。
4回転5本「もっと上を」と決意
「4種類の4回転ジャンプを5本」―。2022年2月の北京冬季五輪へ高難度のプログラムにこだわり、さらなる新境地へと突き進むモチベーションが進化を支える。
NHK杯のテレビインタビューでは「結果は素直にうれしいですけど、一刻も早く今回見つかった課題を練習したい。もっと難易度の高い構成をできるように練習していきたい」と決意を表明。「僕はもっとうまくなりたい。ようやくトップで戦えるようになった自分の実力にうぬぼれず、もっともっと、もっと上を目指して走り続けたい」と澄んだ目を輝かせた。
「鬼門」の4回転ループ成功
勝負を懸けたフリー「ボレロ」は壮大な曲の流れに乗り、冒頭から4回転ループ、4回転サルコーをきれいな着氷で成功させた。第1戦のスケートアメリカでは失敗した序盤のループとサルコーを高い出来栄え加点(GOE)がつく内容でリベンジし、特に「鬼門」のループはGOE3.30を引き出した。
「ようやく前半のジャンプがループとサルコー、試合で跳ぶことができて。サルコーなんかは練習からいいイメージで跳ぶことができた」と振り返る。
続く4回転トーループからの連続ジャンプは2つ目のジャンプが3回転の予定を2回転になったが、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)も美しい着氷でGOE2.40の加点を得て、前半のジャンプ要素4つは大きなミスもなくほぼ完璧だった。
スピン、コレオシークエンスを挟み後半へ。演技後半のフリップでは4回転の予定が2回転となったが、ミスを最小限に食い止めた。
ジュースを断つなど食事管理で体の切れ味も増したスピンは最高評価のレベル4を獲得。ジャンプ要素最後のトリプルアクセルからのオイラー-3回転ジャンプも無難にまとめ、伸びしろを感じさせる演技で観衆を魅了した。表現力を示す演技構成点では音楽の解釈など4項目で9点台をマークした。
「スケートアメリカは最初の二つを失敗していたので追い込まれた状況の中で後半まとめる、といった力が出ていた。今回のようにうまくいってしまうと、後半の緩みが少し出てしまったのかなと思います」とインタビューで語ると、場内から笑いが起こる一幕も。宇野も「笑うところですかね」と応じて和やかな雰囲気を醸し出した。そんなやり取りができるのも自身が復調を感じ取ったポジティブな要素だろう。
完成度高めれば合計300点の大台も
銀メダルを獲得した平昌冬季五輪後は環境の変化を求め、コーチをつけず1人でもがいて「どん底」の時期を味わった。コーチ不在となった2019年にはGPフランス杯で涙に暮れた8位、ロシア杯で4位にとどまり、GPシリーズで初めて表彰台を逃している。
それでも次世代のホープ鍵山優真(オリエンタルバイオ・星槎)らの台頭にも刺激され、はい上がってきた。「この数年間、表彰台に上がることもできないシーズンが続いていた。NHK杯を機に再び世界のトップで競い合う存在に戻ってこられた」という言葉は何よりも自信を取り戻して力強く響いた。
「救世主」として新たに出会った元世界王者のステファン・ランビエルコーチとは「世界一」へと歩みを共にする深い絆がある。そんな思いと悔しい経験が今の宇野を突き動かす。
ジャンプだけではなく、スピンのポジション切り替えやステップシークエンスの動きも今季は鋭さを増した。ミスの内容を修正し、さらに難度の高い演技の完成度を高めれば、合計300点の大台も見えてくるだろう。
「失敗してもいい、そんな気持ちで」と挑戦する気持ちと向上心。「皆さんに支えられて、今こうして自分がいる」という思いを胸に、宇野が北京五輪へさらなる進化を目指す。
【関連記事】
・宇野昌磨、今季初戦で北京冬季五輪へ「体力強化」の成果を再確認
・宇野昌磨、北京冬季五輪へフリー「ボレロ」で4回転4種5本に挑戦
・宇野昌磨、心機一転で挑む北京五輪シーズン「昨日の自分に負けない」