勝負の1年、振り付けはランビエル氏担当
勝負の1年へ決意が伝わってくるお披露目の演技だった。氷上で全身を使って情熱がほとばしるような表現力。フィギュアスケートの2018年平昌冬季五輪男子銀メダリストで23歳の宇野昌磨(トヨタ自動車)が4月30日、横浜市のコーセー新横浜スケートセンターで行われたアイスショー「プリンスアイスワールド」のリハーサルに臨み、来季の北京冬季五輪シーズンで使うフリーの演目「ボレロ」を披露した。
モーリス・ラヴェル作曲の「ボレロ」はフィギュアスケート界でも数々の伝説を残してきたクラシックの名曲だ。振り付けは指導を受ける2006年トリノ冬季五輪男子銀メダリストのステファン・ランビエル氏(スイス)が担当。宇野によると、コーチ自らの振り付けは「ラ・ビ・アン・ローズ」以来、2回目という。
お披露目では情感あふれる魂を込めたプログラム構成で、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)や4回転トーループを美しく跳び、芸術性の高いランビエル氏の個性や思いが色濃く表現された内容だった。
今後、練習拠点にするスイス仕込みのスピンやステップなど細部の調整を重ねてどこまで演目が「進化」していくか。演技を終えると、本人も充実した笑みを浮かべ、宇野の代表作になる予感も漂った。
ハードな内容、ボリューム満載の構成
宇野は自身の動画投稿サイト「ユーチューブ」で北京五輪シーズンとなる来季のフリーを名曲「ボレロ」で滑ると発表した際に「内容は今の段階ではかなりハード。ステファンも入れたいものをたくさん入れたんだなと。例年だと少しずつ振り付けを抜いて楽になってしまうことが多いので、なるべくこのボリュームのままシーズンを終えられることを目標にしている」と決意を口にした。
3月の世界選手権(ストックホルム)は4位で、五輪を迎える来季は五輪2連覇中の羽生結弦(ANA)、世界選手権3連覇のネイサン・チェン(米国)の背中を追う構図は変わりない。初出場の世界選手権で2位に入った18歳の鍵山優真(神奈川・星槎国際高横浜)も台頭してきている。
宇野はフリー曲「ボレロ」への挑戦について「シーズン中に合間を縫って少しずつ作ってきた」と明らかにしている。「本当にできて間もないので全くの手直しなしの、できたてほやほや。これをベースにシーズンに向けて少しずつ変えていこうと思っている。ブラッシュアップして今シーズン中に完成したものを見せていきたい」と五輪シーズンへの構想を語った。
ゲーマーの遊び心、世界初の「大技」挑戦も
来季に向けて再始動する宇野は、自身のユーチューブで「ゲーマー」としての素顔ものぞかせ、その腕前はプロ級との評判も。マンガ好きとしても知られている。そんな「遊び心」が競技にも反映されるところが宇野のスケーターとしての魅力の一つといえるだろう。
4月の世界国別対抗戦では、昨季最終戦となった男子フリーで高難度のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)―4回転トーループに挑んだが、惜しくも着氷できなかった。冒頭で決めれば、世界初成功となる「大技」に来季もプログラムのどこかに取り入れて再挑戦する可能性も残っている。
宇野は所属するトヨタ自動車の動画で表彰台を逃した世界選手権後に「また来年、もっと成長できるように。新たな挑戦者として、世界のトップ争いに再び戻ってこられるように頑張りたい」と決意を新たにした。
不完全燃焼に終わった昨季から学びのヒントをつかみ、それを足掛かりにさらに大きく羽ばたける五輪シーズンとできるか。「滑っていて滑りがいはある」という「ボレロ」の演目。どこまで完成度を高めていけるか、勝負のシーズンはもう始まっている。
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