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今季のフィギュア男子総括、羽生結弦、宇野昌磨は苦闘の末に光明

2020 4/5 11:00田村崇仁
全日本選手権の(左から)羽生結弦、宇野昌磨、鍵山優真Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

羽生、宇野の復調キーワードは「融合」

今季のフィギュアスケートは新型コロナウイルスの感染拡大で、3月18日に開幕予定だった世界選手権(モントリオール)が中止となり、不完全燃焼のまま唐突な形で全日程を終えた。

男子の日本勢を振り返ると、冬季五輪2連覇で25歳の羽生結弦(ANA)、2018年平昌冬季五輪銀メダリストで22歳の宇野昌磨(トヨタ自動車)はともに激動のシーズンで、苦闘の末に光明を見いだした1年でもあった。

復調のキーワードは「融合」。羽生は音楽との融合で自分らしさを取り戻し、宇野も新コーチとの融合で新境地を切り開きつつある。

一方で1月の冬季ユース五輪で金メダルに輝いた16歳の鍵山優真(神奈川・星槎国際高横浜)、昨年12月のジュニア・グランプリ(GP)ファイナル覇者で同じく16歳の佐藤駿(埼玉栄高)といった新世代コンビが台頭。偉大な先輩の背中を追って脈々と受け継がれるフィギュア男子の系譜は今後も日本の底力につながっていきそうだ。

羽生は五輪の演目戻し「スーパースラム」達成

氷上によみがえった和笛や太鼓の音。羽生は金メダルに輝いた平昌五輪で滑った伝説のフリー「SEIMEI」を約2年ぶりに復活させ、2月の四大陸選手権で初優勝した。シーズン中に異例の形で演目を戻すことを決断し、原点回帰でショートプログラム(SP)の「バラード第1番」ではジャンプと音楽が融合した「芸術作品」のような完璧な演技で世界最高得点の111.82点をマーク。男子初のジュニア、シニア主要国際大会を全制覇する「スーパースラム」を達成した。

四大陸選手権成績

プログラム変更には伏線があった。今季はループ、サルコー、トーループの3種類の4回転を駆使し、グランプリ(GP)シリーズでスケートカナダ、NHK杯と2連勝。好敵手、ネイサン・チェン(米国)との一騎打ちに照準を定めていたが、昨年12月のGPファイナルで合計335.30点の世界最高得点で3連覇したチェンに43.87点の大差をつけられて2位。フリーでチェンと同じ4種類計5度の4回転ジャンプを着氷したものの、SPでの細かいミスも響いて及ばなかった。

GPファイナル成績

約2週間後の全日本選手権ではシニアになって宇野に初めて敗れて2位。過密日程に練習拠点トロントとの長距離移動も重なって疲労の色が濃く、4度挑んだ4回転ジャンプで成功はサルコーの一つのみと精彩を欠いた。失意から立ち直るため、選んだのが慣れ親しんだ五輪の演目に戻し、音楽と一体になって「自分らしく滑る」という決意だった。

来季に向け、世界で初めて成功を目指すクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)を入れた理想の演技も追い求める。高さ、幅、回転速度の全ての条件がそろわないと跳べない夢の4回転半。高難度のジャンプとしなやかな技を音楽に融合させ、宿敵チェンに立ち向かう。

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宇野は救世主と新タッグで全日本4連覇

宇野は新たな環境で「変化」を求めた。昨季終了後に5歳から師事した山田満知子、樋口美穂子両コーチの下を離れた。異例の指導者不在で迎えた今季は昨年11月上旬のGPシリーズ第3戦のフランス杯で8位に終わるなど不振に陥り、得点表示を待つ孤独な「キス・アンド・クライ」で「どん底」を味わった。シニア転向5季目で初めてGPファイナル進出も逃した。

救世主は2006年トリノ五輪銀メダルで元世界選手権王者のステファン・ランビエル氏(スイス)だった。表現力など感性に鋭く、心技両面で支えとなる新コーチの存在は大きかった。GPシリーズのロシア杯で4位と復調し、狂っていた得意のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の感覚とステップやスピンの安定感も取り戻した。

昨年12月の全日本選手権では直接対決で一度も勝ったことのない羽生をフリーで逆転し、4連覇を達成。4回転ジャンプはフリップとトーループの2種類計3本に絞り、何より新コーチとのタッグでスケートを自然体で楽しむ姿勢を思い出したことが力になった。 苦境を脱し、来季は世界の舞台で再び、羽生、チェンに堂々と挑んでいく。

全日本選手権成績

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16歳コンビの新世代も台頭

10代の次世代コンビも頭角を現した。冬季ユース五輪王者となった鍵山は、五輪に2度出場した正和さんを父に持ち、スケートセンス抜群のホープ。4回転トーループを得意とし、全日本選手権と四大陸選手権でも3位に入るなどシニアの大会でも好成績を残した。

3月の世界ジュニア選手権では惜しくも2位で優勝を逃したが、潜在能力は十分。来季からシニアに転向を表明し、スケーティング技術と表現力、ジャンプの「総合力」で世界でも勝負できるタイプだ。

昨年12月のジュニアGPファイナルでジュニア世界最高の合計255.11点をマークして初優勝した佐藤も4回転ルッツとトーループのジャンプを武器にする逸材。10年前に頂点に立った同じ仙台市出身の羽生に憧れ、背中を追ってきた。

2年後の北京冬季五輪へ日本勢は新旧世代が融合し、来季は国内の競争も激しさを増していきそうだ。

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