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ツール・ド・フランス2022の出場チームが決定、「暗黙の了解」が存在する選考方法と選出理由

2022 2/19 11:00福光俊介
イメージ画像,ⒸA.S.O./Aurelien_Vialatte
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ⒸA.S.O./Aurelien_Vialatte

世界最高の22チームがスタートラインへ

世界最大の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」2022年大会の出場チームが決定し、主催するフランスのスポーツイベント運営会社A.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)より発表された。

今年の出場チームは22チーム。昨年の大会で圧倒的な強さを見せたタデイ・ポガチャル(スロベニア)を擁するUAEチームエミレーツや、この大会の通算ステージ優勝記録数に並ぶ34勝を挙げているマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)が所属するクイックステップ・アルファヴィニルもスタートラインにつく。

ツール・ド・フランス2022出場チーム,ⒸSPAIA


ツール・ド・フランス出場チーム決定方法

オリンピック、サッカーW杯とならぶ大規模スポーツイベントともいわれるツール・ド・フランス(略してツール)。大会に出場するチームがどのように選考されているのかを解説しよう。

競技統括団体UCI(Union Cycliste Internationale:国際自転車競技連合)の規定で、「グランツール」と呼ばれる3週間規模のレース(ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャ)の出場チームは、最大で22と定められている。

そのうえで、UCIに国際登録するチームのなかから、第1カテゴリーにあたる「UCIワールドチーム」に属する18チームが自動的に出場資格を確保。UCIワールドチームは正規の申請を経て、倫理面・財務面・管理面・組織面の審査を高いポイントで通過している、いわば世界最高のチーム群。ツールをはじめとするロードレース界最高峰リーグの「UCIワールドツアー」を主戦場とし、チーム力や実績を見てもツール出場にふさわしいレベルにある。

次に、第2カテゴリー「UCIプロチーム」のうち、前年のUCIチームランキング(世界ランキングに相当)で上位2枠を占めたチームが出場資格を得る。これはUCI規定に基づくもので、本来であればレース単位での主催者推薦にゆだねられる「UCIワールドツアー」への参加も全戦可能となっている(レースごとに出場資格の返上も許されている)。

そしてポイントとなるのが、最後の2枠。主催者に決定権があり、UCIプロチームの中から大会出場に適していると判断された2つのチームが選出される(主催者推薦=ワイルドカード)。

地元フランス勢2チームが主催者推薦でツールへ

自転車ロードレースにおける主催者推薦は、規則こそ存在しないが開催地のチームが選出されるのが基本。実際にツール2022も、フランス籍の「B&BホテルズKTM」と「トタルエナジーズ」が最後の2枠を確保した。まれに他国籍のチームが選出されることもあるが、ツールであればチームスポンサーがフランス企業であるなど、同国と何らかのつながりがあるケースがほとんど。この傾向は同規模のレースであるジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャにもみられる。

ただ、よほどのことがない限り、その理由が開示されずとも選考内容に異論は生まれない。第2カテゴリーに属するとはいえ、歴史や実績を積み重ねているチームが多く、過去のツール出場時に好成績を残しているなど、主催者のみならず競技関係者やファンからの支持を集めていることもプラスに働いている。

今回選出されたB&BホテルズKTMであれば、創設5年目と比較的新興チームでありながら、ここ数年のツールで成果を上げていること。また、トタルエナジーズはスポンサーが変わりながらもチームの伝統を守り続けていることに加え、今年は元世界王者で高い人気を誇るペテル・サガン(スロバキア)が移籍加入。ビッグネームが所属しているだけでも、ツール選考へは大きなアドバンテージとなってくる。

かつては「選考の不透明さ」で大問題に発展したことも

いまでこそスムーズに出場チームが決定するツールだが、過去には高いチーム力を誇りながら選出されないなど、選考方法を問題視する向きが強まった時期があった。その多くにドーピングにかかわる事案(所属選手にドーピング違反者が多数出た、など)が絡んでいたとはいえ、チームが第1または第2カテゴリーに属しながらツール出場がかなわないという状況には、大会の意義をも問う声が聞かれるようになった。

そこで思い出されるのが、先ごろの選抜高校野球の出場校選考である。出場枠2の東海地区で、昨秋の東海大会で準優勝した聖隷クリストファー高校が落選し、ベスト4で敗退した大垣日大高校が選ばれた問題は、選考過程が明確にされないまま事実上の幕引きがなされた。密室での選考によって導き出された不可解な結果への波紋は今なお広がる一方だが、実はツールでも懐疑的な目で見られるケースは何度もあった。

しかし、この10年ほどで、ドーピング違反への取り締まりを強化すると同時に、上位カテゴリーに申請するチームにはアンチ・ドーピング姿勢を含む運営面の整備を義務化。これらのチームが高いレベルでレース活動できるようUCI規則も細かく見直され、選考方法も明瞭に。こうして、“自転車ロードレース界最高の戦い”が保たれるようになった。

一方で、第2カテゴリーのうち「非開催国」のチームにとっては、目指すレースへの出場権を得ようにも大きな壁が立ちはだかることとなった。それを乗り越えるには、日頃から各地のレースで常時好成績を残すことや、大物選手の獲得など、強いインパクトをもってロビー活動に取り組む必要性が強まっている。前述した、「UCIワールドランキングでの上位入り」も近道の1つといえよう。

今年であれば、ツール初出場を目指していたノルウェー籍の「ウノエックス・プロサイクリング チーム」が選外になったが、ワイルドカード選出の2チームと比較すると実績・実力ともまだまだ及ばないあたりは否めなかった。一層のチーム強化を図りながら、夢の舞台へのチャレンジを続けていくこととなる。

ツール2022年大会は7月1日、コペンハーゲンで開幕

厳しいセレクションをクリアした22チームだけが走ることのできる世界最高のレース、ツール・ド・フランス。ここからは、各チーム8人の出走メンバーをかけたチーム内競争も熾烈になっていく。出場経験が豊富な選手とて、今シーズンの走りが振るわなければ容赦なくメンバー外になってしまうのが自転車ロードレースの世界。ツールは出場選手も、世界最高の顔触れとなる。

2022年大会は7月1日、大会史上初めてとなる北欧進出として、デンマークの首都・コペンハーゲンで開幕。3週間戦い抜いた選手たちは、同24日にパリ・シャンゼリゼに到達する。

2021年大会最終ステージのパリ・シャンゼリゼ

ⒸA.S.O./Aurelien_Vialatte


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