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7月開幕ツール・ド・フランスに日本人出場の可能性 自転車ロードレースにコロナ前の熱気戻る

2022 5/17 11:00福光俊介
イメージ画像,ⒸA.S.O./Pauline Ballet
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ⒸA.S.O./Pauline Ballet

ツール・ド・フランスに生活のすべてを捧げるロードレーサー

自転車ロードレース競技の2022年シーズンがおおむね順調に進行中だ。新型コロナウイルス感染対策における各国の指針によって、一部の大規模レースがいまなお中止の判断がなされているが、競技の本場ヨーロッパはほぼコロナ前のシーズン進行に戻っている。屋外競技で、さまざまな国・都市をめぐるという特性がありながらも、他のスポーツと同様に「アフターコロナ」「ポストコロナ」の中で熱い戦いが繰り広げられている。

とりわけ大きな規模を誇り、世界190カ国以上でレース中継が放映されるツール・ド・フランス(略してツール)は今年、フランスを飛び出して北欧・デンマークで開幕。同国で3日間走って、第4ステージ(大会4日目)から本来の舞台であるフランスを走ることになっている。

デンマーク開催記念イベント時の様子,ⒸA.S.O./Lars Moeller/LetourCPH

ⒸA.S.O./Lars Moeller/LetourCPH


1日に150km前後の距離を、生身の人間が自転車を操縦して走り抜くロードレース競技。今年のツールは3週間で3328kmを走破する予定で、最短で13km、最長で220km走る日が設けられる。それもただ走り切れば良いだけではなく、トップを目指しライバルから遅れをとることなく戦わなければならないため、平均スピードにして時速40~45km、瞬間的には時速60kmにも達することがある(下りだと時速100kmを超えることも!)。

日々消耗戦となるので、突如体調を崩したり、故障する選手が続出することは当たり前。ツールに限っては「完走することに意義がある」との考え方が古くから定着しており、コンディション不良の選手がフラフラになりながら毎日を戦う、といったシーンは毎年見られる光景だ。選手たちは食事に細心の注意を払い、新型コロナウイルス感染拡大以降は感染症対策にも気を遣う必要性が出てきた。選手はもちろん、彼らを支えるチームスタッフや大会関係者も、この3週間のために生活のすべてを捧げるのである。

過酷さの割に手に入るお金は少ない?ツールの賞金事情

フランスの大小さまざまな都市を訪れ、ときに国外へと足を延ばすツール。その規模ゆえ、オリンピックやFIFAワールドカップと並んで「世界三大スポーツイベント」の1つに数えられることもある。

開催地フランスにおいて自転車ロードレースは、サッカーと並ぶ人気スポーツ。特にツールが開催される6月下旬からの約1カ月間はバカンスシーズンと重なることから、家族旅行を兼ねてレース観戦を楽しむ人たちの姿も多く目にする。

そんな、人々を熱狂の渦に巻き込む自転車ロードレースの最高峰、ツール・ド・フランス。いったいどれくらいのお金が動いているのか気になるところだ。

大会主催者が公表する賞金総額は、約230万ユーロ(約3億1600万円)。このうち、最高栄誉である個人総合優勝者には、45万ユーロ(約6200万円)が支払われる。2位以下も順位ごとに賞金額が設定されており、91位以下は完走できれば一律400ユーロ(約5万円)となっている。

そのほか、ステージ優勝(各日のレースで1着となった選手)には1万1000ユーロ(約150万円)や、各日の個人総合首位(初日からの総タイムでトップ)の選手には350ユーロ(約4万8千円)といった設定もある。

昨年の大会を例にとると、個人総合で2連覇を達成したタデイ・ポガチャル(スロベニア)は、個人総合優勝・ステージ3勝・各日の個人総合首位・ヤングライダー賞・山岳賞が賞金対象となり、ひとりで総額60万9770ユーロ(約8400万円)を獲得。彼が所属するチーム「UAEチームエミレーツ」がこの大会で得た賞金総額が62万380ユーロ(約8500万円)だったので、ポガチャルがほぼすべてを稼ぎ出したことになる。

これだけ見ると夢があるようにも思えるが、実情としてツールの賞金額はここ30年ほどほとんど変わっていないといわれている。また、野球やサッカーといった世界のメジャースポーツと比較すると、決して賞金は高額とは言えない。競技の過酷さの割に、トップ選手であっても手に入るお金は少ない、という見方が自転車ロードレース界では一般的だ。

2年連続マイヨジョーヌを獲得したポガチャル

ⒸA.S.O./Charly Lopez


日本人選手にもツール2022年大会出場の可能性

日本では自転車ロードレースがメジャーとは言えず、競技水準もヨーロッパ諸国と比較すると高いとは言えない。後進国であることは否めないが、それでもツールへの道を切り拓き、実績を残した選手たちが存在する。

過去にツール出場を果たした日本人は4人。1926年と1927年に、当時フランス在住だった川室競(かわむろ・きそう)が出場。いずれも初日で棄権したという記録が残されている。

それからしばらくの長いトンネルを経て、1996年に今中大介が戦後の日本人選手として初出場。再びしばしのブランクがあって、2009年に別府史之と新城幸也がそれぞれ初出場。別府はこの大会の最終日、パリ・シャンゼリゼ通りで攻撃的な走りを見せて、ステージ敢闘賞(その日最も印象的な走りをした選手に贈られる)を獲得。新城はその年を含めて計7回ツールの舞台に立ち、2度ステージ敢闘賞を手にしている。

2016年のツール第6ステージで敢闘賞を受賞した新城幸也,Ⓒゲッティイメージズ

Ⓒゲッティイメージズ


2022年も日本人選手にツール出場のチャンスはある。すでに今年の大会には世界トップの22チームがスタートラインにつくことが決まっていて、これらのチームに日本人が2選手所属。チーム内競争を勝ち抜くことが大前提だが、このところの活躍からすると十分に可能性がある。

前述の新城は37歳の今も一線級の走りを見せており、所属するバーレーン・ヴィクトリアスではアシスト役(チームで最も強い選手のためのサポート役)として獅子奮迅の働き。今年は新型コロナ感染やレース中のクラッシュによる負傷で戦線を離れた時期があったものの、すでに復帰して力強さを取り戻している。

もう1人は、EFエデュケーション・イージーポストに所属する32歳の中根英登。日本のレースをメインに走っていた時期もあるが、2017年以降はヨーロッパに活動の基軸を移し、現在はスペインを拠点としている。こちらもアシスト役としてチーム内での信頼を勝ち取っている。

中根英登,Ⓒゲッティイメージズ

Ⓒゲッティイメージズ


5月1日にドイツで開催されたレース「エシュボルン・フランクフルト」では、この2人がそろい踏み。ともに大集団を牽引しペースメイクする場面が何度も見られ、現地中継でも彼らの働きぶりが紹介されるほどのインパクトを残した。

両者に共通するのは、ベテランの域に達している点。自転車ロードレースにおけるプロキャリアのピークは30歳前後で、若い頃に吸収した経験やレース勘がちょうどその頃に花開くのが特徴だ。その意味で、新城も中根も経験・実績とも申し分なく、トップシーンにおけるリーダー的な立ち位置にまで上り詰めている。いまや、彼らに求められているのは自身の結果はもとより、チームへの貢献度や若い選手を後押しするところにある。

今年のツールに出場できれば、関係者の誰もが高く評価する献身性とアグレッシブな姿が見られるはずだ。ぜひ2人の動向に注視してほしい。

ツール・ド・フランス2022年大会は7月1日に開幕。同24日に最終目的地のパリ・シャンゼリゼに到達する。

パリ・凱旋門前を走る選手たち

ⒸA.S.O./Charly Lopez


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