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なぜ自転車が不足しているのか?コロナ過がロードレースに及ぼした意外な問題

2021 12/12 11:00福光俊介
グルパマ・エフデジのバイク,ⒸSPAIA(撮影・福光俊介)
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ⒸSPAIA(撮影・福光俊介)

夏に新作が発表され、秋に発売するスポーツバイク

国内外の大手自転車メーカーは、ロードバイクやクロスバイクといったスポーツバイクを中心に毎年夏ごろに新モデルの発表を行っている。これは、メーカーにとって一番利益が出る時期に合わせていて、「夏に発表して秋に販売を本格スタート」というのが自転車業界での一般的な流れとなっている。

とりわけ業界内での注目が集まるのが、例年6月下旬から7月半ばに開催される自転車ロードレース最大のレース「ツール・ド・フランス」だ。最高峰の戦いに挑むチームの多くが最新鋭のバイクや機材を投入し、その性能を確かめる場ともなっている。

ほとんどのメーカーがツール後に新作の正式発表を行うので、選手たちがレースで使用するバイクや機材に関する情報はその時点では憶測の域に過ぎないとはいえ、世界中のあらゆるサイクルメディアがリークするのが「毎年のお楽しみ」であったりする。

ところが、その情勢に異変が起きている。このところの深刻な自転車不足で、消費者はもとよりプロの自転車ロードレースチームにも「商売道具」である自転車が届かない事態が発生しているというのだ。

自転車不足を生んだ3つの大きな理由

自転車ロードレースのプロチームは、メーカーと使用契約を結んだうえでシーズンを戦う。チーム規模や出場レースのバリューが高まれば高まるほど、メーカーは宣伝効果を考えて高品質のバイクを供給する。そして、トップライダーの活躍を見た一般のサイクリストが同じメーカー、同じバイクに乗ろうと購入を図る。

自転車競技を統括するUCI(国際自転車競技連合)によって、レースで使用される自転車やパーツは市販されるもの、または市販が決まっているものと定められていることから、「ツール・ド・フランスで活躍したあの選手と同じ自転車に乗れる」という喜びや楽しみが、サイクリストにとってのモチベーションにもつながっている。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が大きく影響し、このシステムが崩れているという。

その理由として第一に、世界的な自転車人気の高まりが挙げられる。地球環境にやさしく、新型コロナ禍で他者と接触することなく移動できる手段として、日本に限らず欧米でも自転車を求める人が急増。これをきっかけに、慢性的な自転車不足が発生した。

第二に、生産ラインが追いつかない状況に陥ったこと。自転車が各方面で飛ぶように売れた一方で、大手自転車メーカーの多くが工場を置く中国や台湾などアジアでの生産活動がストップしたことも自転車不足に追い打ちをかけた。アジア圏での生産ライン停止によって品不足が顕著となったものに電子機器が挙げられるが、自転車や関連部品もそれに匹敵する割合だと言われている。

そして第三が、輸送費の高騰。中国や台湾で製造された自転車を欧米へと運ぼうにも、コンテナ輸送費が7~9月期で前年比125%、新型コロナ拡大前と比較すると10倍近く跳ね上がっていることから、輸出入を押さえざるを得ない状況となってしまった。

本来、新作自転車が多数世に出るはずだった2021年の秋は、ヨーロッパではアフターコロナのムードが高まり社会活動が活発になったが、それに反比例するように自転車の消費は停滞の一途をたどったのだった。

これらの緊急事態はスポーツバイクにとどまらず、“ママチャリ”と呼ばれるようなタウンサイクルにも影響を及ぼしており、専門店または量販店へ行けば手に入る日本と比べ、欧米では多くのお店で品切れ状態が続いているのだという。

トップチームはぜいたくを改める格好の機会に?

自転車ロードレースに話を戻そう。 本記執筆時点の2021年12月は多くのチームが来シーズンへ向けたトレーニングキャンプを実施している。例年であれば、この時期のキャンプでは来るレースに向けたトレーニングもさることながら、翌年使用する新バイクの試乗や調整も兼ねており、この時期のバイクフィッティングが次のシーズンの活躍に直結しているといっても過言ではない。

だが、自転車や関連部品の不足はこれらチームも例外ではなく、チームによっては一部選手にしか新車が供給されない状況も発生しているという。

通常であれば、シーズン終了とともにチームメカニックが来年を見据えた新バイクの組み立てや調整に入り、冬場のトレーニングキャンプには準備が整っている。しかし、今年ばかりはそうはいかず、2021年シーズンに使用したバイクやパーツを来季まで継続使用することを決めたチームもある。

いつもであれば、シーズン終了後にレースで使用したバイクを中古販売し、その売り上げを活動資金に充てるチームも存在するが、今年はそれを断念したとも。

自転車ロードレース最高カテゴリーのUCIワールドツアーを主戦場とするフランスチーム「グルパマ・エフデジ」のチームマネージャー、マルク・マディオ氏は「最低限の必要台数はそろったのでトレーニングキャンプは心配していない。ただ、レースに向けてはまだまだ足りない」。同じくフランスチーム「アージェードゥーゼール・シトロエン チーム」オペレーションマネージャーのトマ・ダムソー氏は「以前は損傷したパーツをすぐに捨てていたが、この状況下では修理して再利用している」とそれぞれ事情を口にする。

同様にフランスを拠点とするチーム「コフィディス」に至っては、契約メーカーとの話題が2023年の供給バイクに移っているといい、2022年シーズンに向けた準備が進んでいない実態も明らかになっている。

コフィディスのバイク

ⒸSPAIA(撮影・福光俊介)


通例では1月にシーズンインする自転車ロードレースだが、レース開催中止などが関係してUCIワールドツアーの初戦は2月へと変更された。各チームの自転車準備のプレッシャーが幾分軽減されたと見られるが、これまでにない難しい問題は果たしてシーズンインまでに解決するのだろうか。

一方で、メーカーからの供給に任せてある程度のぜいたくが許されてきたトップチームにとっては、自転車や機材をこれまで以上に大切に扱う重要な転機が訪れたと見るべきなのかもしれない。

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