1位・中谷潤人と対戦指令も統一戦を優先?
プロボクシングのWBO世界スーパーフライ級王者・井岡一翔(33=志成)がタイトル返上したことをWBOの公式ツイッターが伝えた。
井岡は2022年大晦日にWBA同級王者ジョシュア・フランコ(27=アメリカ)と引き分け、王座統一に失敗。WBOから同級1位・中谷潤人(25=M.T)と180日以内に戦うよう指令が出ていたが、ベルトを返上することで中谷と戦うことなく統一戦を模索する道を選んだと見られる。
これを受けてSNS上では井岡に批判的な書き込みが増えている。「がっかりだ」「中谷から逃げたね」「みっともないチャンピオン」「中谷潤人との対決が見たかった」「男下げたなぁ」など辛辣な意見も少なくない。中には「全面的に支持する」などという声もあるが、大多数は批判的な意見だ。
井岡の決断に逆風が吹くのは、それだけ中谷の高い評価の裏返しと言える。元WBO世界フライ級王者で、デビュー以来無傷の24連勝(18KO)。身長は井岡より7センチ高い172センチのサウスポーで、フライ級王座を返上してスーパーフライ級で2階級制覇を狙っている。
スピードとパワーを兼ね備えた中谷は、井上尚弥(29=大橋)に続く「ネクストモンスター」と呼ばれており、今後さらなる飛躍が期待されている。井岡と対戦すれば「中谷有利」と見る向きも多く、ハイレベルの手に汗握るファイトとなることは必至だった。
井岡より明らかに格下なら「逃げた」という批判は起こらない。もしかしたら負けるかも…という強敵だからこそ、ファンは対戦を望み、今回の井岡の王座返上に失望しているのだ。
統一戦を待ち続けてきた井岡
井岡は3月の誕生日で34歳になる。プロボクサーとして残された時間は多くない。
ボクサーが1年に2~3試合程度しかできないことを考えると、限られた時間を割いてWBOからの指令通り中谷との指名試合に臨むより、最短距離で目標の王座統一に向かいたい気持ちは理解できる。
井岡はかねてから統一戦を望みながら流れてきた経緯がある。2021年には当時IBFスーパーフライ級王者だったジェルウィン・アンカハス(フィリピン)と2団体王座統一戦を行うと一度は発表されながら新型コロナの影響でキャンセル。代役の福永亮次(角海老宝石)との防衛戦に判定勝ちした。
2020年大晦日の田中恒成(畑中)戦でも「メリットのない試合」と言いながら8回TKO勝ちして貫禄を見せつけた。コロナ禍の影響も受けながらも、防衛を重ねて統一戦のチャンスを待ち続けてきたため、これ以上遠回りしたくないのが本音かも知れない。
日本中を盛り上げた辰吉vs薬師寺、畑山vs坂本
ただ、ファンの期待に応えるのもプロの使命だとすれば、井岡の決断は残念と言わざるを得ない。
「メリットがない」と話していた田中戦も、結果的には井岡が完璧なノックアウトを見せたことで、世界で最も権威のあるボクシング誌「ザ・リング」のパウンド・フォー・パウンド10位にランクインした。井岡の実力を世界が認め、井岡には十分な「メリット」があったのだ。
井上尚弥がバンタム級王者だった頃、井岡との対戦に前向きとも取れる意思をSNSで匂わせたことがあった。それでも井岡が井上戦に関心を示すことはなかった。
井岡は日本で唯一4階級制覇した、ボクシング史に残る選手だ。日本ボクシング界を背負うほどの存在なら、日本ボクシング界を盛り上げるために、仮に望まないカードであっても一肌脱ぐくらいの度量があってもいいのではないか。
かつて辰吉丈一郎と薬師寺保栄が対決したバンタム級統一戦は日本中の注目を集めた。畑山隆則はライト級王者時代、リング上から坂本博之に呼び掛けてライバル対決を実現させた。そこにはファンの期待に応えようとするプロフェッショナリズムと、ライバルと決着をつけたいという男気、ボクサーとしての本能のようなものがある。
「無冠」井岡の商品価値は?
懸念されるのは、タイトルを返上して無冠となった井岡の今後だ。フランコと再戦するとしても、王者同士ではなく井岡が挑戦する形になる。水面下で合意しているのか分からないが、フランコはベルトを持っていない井岡と対戦するだろうか。
少なくとも井岡が対戦を熱望するWBCスーパーフライ級王者ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)との対戦は、実現するとしてもさらにその先になるだろう。
ベルトを持っていてこそボクサーの「商品価値」は高まる。ビッグマッチを組むためにベルトを返上した井岡は、墓穴を掘ることにならないだろうか。元4階級王者の今後を注視したい。
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