井岡が判定勝ちで3度目の防衛
プロボクシングのWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチが1日、東京・大田区総合体育館で行われ、王者・井岡一翔(32=志成)が同級2位フランシスコ・ロドリゲス・ジュニア(28=メキシコ)を判定で破り、3度目の防衛に成功した。
立ち上がりから前進してラフなパンチを繰り出す挑戦者に手を焼く場面もあったが、終始落ち着いて細かいパンチをヒットした井岡。時折、強烈な左ボディーブローでロドリゲスの動きを止めるなど、ジャッジ3人とも116-112のユナニマスデシジョンだった。
昨年大晦日に田中恒成を倒した試合に比べるとインパクトに欠けたものの、ベテランらしい安定した戦いぶりを見せた井岡は27勝(15KO)2敗。15連勝中だった元世界ミニマム級王者のロドリゲスは34勝(24KO)5敗1分けとなった。
今後はスーパーフライ級の他団体王者と統一戦か
気になるのは井岡の今後だ。すでにミニマム級からスーパーフライ級まで、日本男子選手で唯一の4階級制覇を達成している。32歳という年齢から考えても残された時間は多くない。
井岡としては世界ランカーとの防衛戦を重ねるよりも、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との統一戦に勝ってWBAスーパー&WBCスーパーフライ級王座に君臨しているファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)との3団体統一戦や、IBF同級王座を9度防衛中のジェルウィン・アンカハス(フィリピン)らとのビッグマッチに進出したいだろう。
実現すれば注目の一戦になることは間違いないが、それ以上にファン垂涎のカードがある。世界バンタム級王者・井上尚弥戦だ。
52.16キロのスーパーフライ級より1階級上のバンタム級は53.52キロ。井岡が5階級制覇を狙って上げる必要があり、1階級違えばパワーも体格も違うボクシングにおいて容易なことではない。
井岡にとっては試合後のインタビューでも口にした通り、スーパーフライ級のベルト統一を狙って他団体の王者とビッグマッチを戦う方が現実的であり、4団体統一を目指す井上にとってもバンタム級のベルトを持っていない井岡と戦うメリットは少ない。
さらに井岡の試合はTBSで中継され、井上の試合を放送するWOWOWとフジテレビが折り合いをつけることは困難だ。井上の試合は米トップランク社のボブ・アラム氏がプロモートしていることもある。実現の可能性は極めて低いと言わざるを得ない。
実現しなかった叔父・弘樹氏と大橋秀行会長の対戦
しかし、それでも観たいと思わせるのは、両者が日本軽量級のトップを張るボクサーであるからだけではない。話は30年以上前にさかのぼる。
井岡の叔父・弘樹氏は言わずと知れた2階級制覇の元世界王者。1987年にファイティング原田の記録を塗り替える18歳9カ月の国内最年少でWBC世界ミニマム級タイトルを獲得し、1991年には17度防衛中だった無敗のWBAライトフライ級王者・柳明佑(韓国)を破って2階級制覇を果たした。地元・大阪を中心にリングに上がった人気王者だった。
一方、井上が所属する大橋ジムの大橋秀行会長はライトフライ級で2度の世界挑戦に失敗し、ミニマム級に落として1990年にWBC世界王座獲得。必殺の左ボディーアッパーで崔漸煥(韓国)を悶絶させ、日本選手の世界挑戦連続失敗を「21」で止めたヒーローだった。
初防衛戦では井岡を破って世界王者になったナパ・キャットワンチャイ(タイ)を撃破。2度目の防衛戦で敗れたものの、1992年には崔煕庸(韓国)との打ち合いを制してWBAミニマム級王座も獲得している。
現役時代の2人は近い階級で戦っていたこともあり、対戦を望む声が多かったが、結局実現には至らないままグローブを吊るした。井岡一翔、井上尚弥と縁の深い人物に、そんな背景があるのだ。
過去にも例が少ない世界王者同士の一戦
世界王者と世界ランカーという構図なら日本人同士でも実現する可能性は低くないが、ともに世界王者同士の対戦となると過去にも例が少ない。
1970年に世界スーパーフェザー級王者・小林弘と1階級下の世界フェザー級王者・西城正三がノンタイトル10回戦で戦ったことがある。現役世界王者同士の「夢の対決」は小林が判定勝ちした。
世界バンタム級暫定王者だった辰吉丈一郎が、正規王者・薬師寺保栄と統一戦を行ったのは1994年だった。大阪が主戦場の辰吉と名古屋を中心に戦っていた薬師寺の一戦は、会場や中継テレビ局などいくつものハードルを乗り越えて実現。ボクシング史に残る激闘の末、薬師寺が判定で王座を統一した。
また、井岡一翔自身もWBCミニマム級王者だった2012年にWBA王者・八重樫東と統一戦のリングに上がり、判定勝ちしている。
もし、井岡と井上の対戦が実現すれば、史上最高のドリームマッチとなるだろう。世界戦の勝利数では井岡が今回の勝利で国内最多の18勝、井上は2位の16勝。同じく4階級制覇の井岡に対して、井上は3階級を制している。
逆に井岡は当時国内最速のプロ7戦目で世界王座を獲得したが、井上は記録更新する6戦目でベルト奪取。世界戦の連勝記録やKO勝利数でも井上が国内1位だ。
国内のあらゆる記録を塗り替え、まさしく日本ボクシング界を引っ張っている井岡と井上。世界で最も権威のあるボクシング専門誌「ザ・リング」はパウンド・フォー・パウンド(全階級を同一体重と仮定したランキング)で井上を2位、井岡を10位にランクしている。
日本人がランキングに入ること自体が珍しいにもかかわらず、同じ時期に階級の近い2人がランキングされることなど、2度とないかも知れない。両者がリング上で対峙すれば、ボクシング界が最高に盛り上がることだけは間違いないのだが…。
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