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【スポーツ×お金】第2回 あなたが突然、球団のGMになったら、何が必要なのか?①

2018 2/2 18:00藤本倫史
バット,ボール,ユニフォーム
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ゼネラルマネージャーは稼げるあこがれの職業

 前回までは、プロ野球選手の年俸について述べた。今回はこのような年俸を査定し、選手の獲得や戦力外通告を行い、球団オーナーから出された予算でチームを整える編成責任者、いわゆるゼネラルマネージャー(GM)について語っていきたい。

 アメリカでは、このGMに就任するのは、スポーツビジネスを志すものとして憧れの職業である。日本でも、このようなアメリカの情報などが伝わっており、「いつか自分も!」という若者は多くなっている。
 なぜ憧れなのか?それは、子どもの時に憧れであったプロスポーツ選手とともに、球界の世界で戦い、高水準の報酬を稼ぐことができるという魅力があるからである。

 シカゴ・カブスの球団副社長セオ・エプスタインは2016年に5年5000万ドル(約50億円)、ロサンゼルス・ドジャースの編成部門取締役アンドリュー・フリードマンは2014年に5年3500万ドル(約35億円)という高額な契約を結んでいる(彼らの肩書は活躍によりGMから格上げになっているが、実質的な編成責任者である)。
 しかも、この両名ともプロ野球選手の経験はなく28歳の若さで、エプスタインはボストン・レッドソックス、フリードマンはタンパベイ・レイズのGMに大抜擢され、成果を出している。

日本では、このGM職に就く人材はプロ野球経験者が大多数を占めている。しかし、営業職やスタジアム運営部門には異業種からの人材が採用され、新興球団である福岡ソフトバンクホークス、東北楽天ゴールデンイーグルス、そして、横浜ⅮeNAベイスターズの球団幹部はそのような人材が多く採用されている。

 ゆえにこのコラムを読んでいる、スポーツビジネスに興味がある20代や30代の読者の方もチャンスはあると考え、「あなたが突然、GMになったらどうすればいいのか?」を想定してもらえると楽しみながら読んでもらえるのではないか。

データを読み、分析する力

 昨年の夏に、私が所属している大学で、学生向けにスポーツビジネス研修を実施した。MLBやMLS(メジャーリーグサッカー)の球団職員にインタビューを行った。そこで印象深い言葉がある。デイビット・ベッカムも所属したLAギャラクシーの球団幹部に、学生がこのような質問した。

「GMになるには、どうすればいいでしょうか?」 すると、その幹部は、 「うちは君の挑戦をいつでも待っている。チャレンジ精神は大切です。まずはインターンに挑戦してください。その中で、語学も大切だが、データを読めて、分析できるようになるといいのではないか。君は何か専門的にデータを扱ったことはあるかい?」 と言った。

 「データを読み、分析する力」これが、今、GMになるのには欠かせない力であることがわかる。
 GMは予算に余裕のある球団でも、余裕のない球団でも、選手に対して使うお金に対して根拠を示さなければならず、表を見てわかるようにドジャースやヤンキースは年間で200億円以上の大金を扱うことになる。このお金をどのように有効的に使い、支出を抑えるのか。

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その重要な判断の決め手となるのが、データによる選手分析である。これを最初に行い、革命を起こしたのが、マネーボールで有名なオークランド・アスレチックスのGMビリー・ビーンである。

新たな選手の価値とは?

 1990年代までは、選手獲得はプロ野球経験者のGMやスカウトの経験と勘を駆使して、打率、本塁打、打点などを参考にして行われてきた。しかし、それだと、予算に余裕のある球団が大金を注ぎ込めば勝利する確率が高くなり、余裕のない球団はずっと下位に低迷する。

 そこで、予算に余裕のないアスレチックスのGMビリー・ビーンは改革を行い、2002年にメジャーリーグ年俸総額28位のチームを103勝できるチームに生まれ変わらせた。この改革のストーリーについては、日本でも2004年に発行されたマネーボールやその映画化作品などでご存知の方が多いのではないか。
 ここでは、ビーンのバックボーンではなく、どこに「選手の価値」を見出したのかに焦点を当てたい。

 マネーボールで語られる選手の価値は何か?私は単純に言うと「運によるプレー評価を捨てた」と考える。マネーボールに登場する打者の指標では、アウトにならない確率と一打で得点になりやすい確率を重要視したOPS(出塁率+長打率)が有名だと思われるが、それだけではない。
 まず、打点と得点圏打率である。打者が安打を打ったときの走者の有無は関係なく、偶然に打てたものだとビーンは考えた。いわゆる「チャンスに強い打者はいない」と想定したのである。また、バントや走塁も自らがアウトにいくものだとして、作戦として多用しなくなった(現在はこの考えは変わっている)。さらに守備に関しても、失策数は記録員の主観的なものであり、重要視しないとした。

 次に投手も同じように、勝利数、防御率、セーブはチームの状況によって変わってくる数字であり、重要視しないとした。逆に、投手の責任となる被本塁打や与四球が少なく、自らアウトがとれる奪三振率が高い投手をいい投手だと定義した。

 これらは皆、球界の常識を覆した。例えば、低打率で動きが鈍いイメージの選手。元アスレチックスでヤンキースでも活躍したニック・スウィッシャーや楽天にも在籍したケビン・ユーキリスのような選手に価値があると判断された。このような誰も見向きもしないような選手を低コストで獲得する。そして、選手もチャンスが与えられるので、一生懸命プレーをし、高額年俸を得る。

 これまで、MLB関係者たちは100年以上続いてきた打率や打点、そして勝利数などの数字を重要視し、その数字が高い選手に高年俸を積めば勝利に近づくと信じられてきた。裏を返せば、そのように金を積めないチームはずっと下位に低迷するしかないと言われた。だが、ビーンはそれを創意工夫し、新たな選手の価値を見出した。 現在、このマネーボールの考え方は一部見直されている。だが、過去のデータを活用し、統計学を用いて分析するセイバーメトリックスの考え方がここで確実に浸透した。

次回は、この「データを読み、分析する」を進化させ、今後のスポーツ界で生きていくための「力」と「未来」について語っていく。

【スポーツ×お金】第2回 あなたが突然、球団のGMになったら、何が必要なのか?②

《ライタープロフィール》 藤本 倫史(ふじもと・のりふみ) 福山大学 経済学部 経済学科 助教。広島国際学院大学大学院現代社会学研究科博士前期課程修了。大学院修了後、スポーツマネジメント会社を経て、プランナーとして独立。2013年にNPO法人スポーツコミュニティ広島を設立。現在はプロスポーツクラブの経営やスポーツとまちづくりについて研究を行う。著書として『我らがカープは優勝できる!?』(南々社)など。