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DeNA嶺井博希に「正捕手」定着を期待したくなる理由 攻守で際立つ勝負強さ

2022 9/2 11:00林龍也
DeNAの嶺井博希,ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

シーズン序盤は出遅れるも、復帰後にノーノー演出

「正捕手不在」

DeNAが長年抱えるウィークポイントだ。近年は1人の捕手が全試合でマスクをかぶることは稀になってきたが、それでも強いチームには「正捕手」という存在がいるもの。昨年日本一となったヤクルトには中村悠平が、4年連続日本一を果たしたソフトバンクには甲斐拓也が、リーグ3連覇を成し遂げた広島には會澤翼が(2016年は石原慶幸が最多出場)正捕手として君臨していた。

今シーズンもDeNAには正捕手と言えるまでの存在がおらず、複数捕手の併用が続く。そんな中で一歩抜け出してきたのが、9年目の31歳、嶺井博希だ。

昨年9月に行った右肘手術の影響で、春季キャンプは自身初の二軍スタート。開幕も二軍で迎え、昇格したのは4月12日だった。しばらくはスタメン出場も少なかったが、5月中旬の交流戦あたりから嶺井のスタメン起用が増え始める。

すると、6月7日の日本ハム戦では今永昇太をリードし、球団52年ぶりのノーヒットノーランへと導くなど、5月、6月をほぼ五割で乗り切ってみせた。 7月以降は嶺井が約半分でスタメン、あとの半分で戸柱と伊藤がスタメンを務めるという起用に落ち着いているが、その間にチームは横浜スタジアムで17連勝の偉業を成し遂げ、2位へと順位を上げてきた。

ライバルに圧倒的な差をつける殊勲打・決勝打

今シーズンの嶺井は、ここまで75試合に出場、打っては打率.221、5本塁打、29打点という成績を残している。29打点というのは、捕手だけで見れば12球団で5番目と上々の成績だが、単純に数字だけを見れば、目立ったものはない。

だが嶺井の良さは、こういった主要打撃成績に現れない「勝負強さ」にある。と言っても嶺井の得点圏打率は.261と、やはり特筆すべき数字ではない。では何をもって「勝負強い」と言うのか、今回注目したいのは殊勲打と決勝打の多さだ。

嶺井はここまで7本の殊勲打を放っており、そのうち6本が決勝打となっている。殊勲打はチーム6位(1位は佐野恵太の21本)、決勝打に至っては同4位(1位はソトの10本)。限られた出場機会の中で、さらに下位打線を打つことが多い嶺井が、勝負を決める一打を量産しているのだ。

正捕手争いを繰り広げる伊藤は殊勲打、決勝打とも1本、戸柱は殊勲打が1本。打率では2人が上回っているだけに、いかに嶺井が「ここぞ」の場面で打っているかがわかる。

※殊勲打:先制、同点、勝ち越し、逆転となる安打
※決勝打:試合を決める安打、四死球、犠飛

打撃だけでなく守備でも「勝負強さ」を発揮

最近は守備面でもこんなシーンがあった。

6月22日の巨人戦、2-3の2回裏一死二、三塁の場面。ウォーカーの打球は犠飛には飛距離充分かと思われたが、左翼の佐野恵太から森敬斗、嶺井の中継プレーで三塁走者のメルセデスをアウトにした。

このプレーでは森の強肩がクローズアップされたが、嶺井はボールを受ける瞬間まで捕球体勢を取らず、まるで諦めたかのような姿勢だった。これを見たメルセデスはスライディングを怠り、アウトに。嶺井の「演技力」も一役買っていたように見えたシーンだった。

さらに8月18日の巨人戦では、4-3で迎えた9回、先頭の大城卓三の打席で遊撃手の柴田竜拓に、中堅寄りに守備位置をとるように指示。すると、大城の放った中堅へ抜けそうな当たりを柴田が好捕、一塁へ送球してアウトとなった。

大事な場面でのビッグプレーには、嶺井のアシストがあったのだ。捕手なら当然のことなのかもしれないが、競ったシーンでしっかり結果を残したことに意味がある。

高校、大学に続いてプロでも日本一の捕手になれるか

嶺井は高校、大学でいずれも正捕手として日本一を経験している。沖縄尚学高2年時には、1学年上のエース・東浜巨(現ソフトバンク)とともに春の選抜で優勝。亜細亜大ではやはり東浜とのバッテリーで東都大学リーグ優勝、4年時には明治神宮大会を制した。

今のDeNAには、投手や野手としてアマチュア時代(高校以降)に日本一を経験した選手はいるが、捕手として日本一の経験があるのは嶺井だけ。しかも、高校、大学の両方ともなるとプロ野球全体でも多くはない。「勝てる捕手」としてプロ入りしているのだ。

プロ入り後も初安打がサヨナラ打、2016年にチームが初めてクライマックスシリーズに進出した時には、巨人とのファーストステージ第3戦に代打で決勝打を放つなど、所々で印象的な活躍を見せるのが嶺井という選手だ。

嶺井を形容する際に「意外性」という言葉が使われることが多いが、それは普段の成績は低くても、勝負所での一打が印象に残るからだろう。

「正捕手」と言うにはまだ物足りない成績かもしれない。守備でのミスも、少ない方ではない。それでも、随所で見せる「勝負強さ」に期待したくなってしまうのだ。

「24年ぶりの日本一 決めたのは嶺井博希」

そんな見出しが各紙に躍る…少し先の未来を楽しみにしたい。

※成績は全て8月31日時点

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