またしても阪神から新人盗塁王が誕生
今季NPBの盗塁王は、記録マニアには見逃せない異例ずくめの結果となった。今回は今年の盗塁王の記録を徹底的に追いかけていく。
まずセ・リーグの中野拓夢は、ルーキー(入団1年目)での盗塁王。これは史上3人目だった。
ルーキーでの盗塁王は、2001年の赤星憲広、2019年の近本光司、そして今年の中野と、すべて21世紀以降の阪神の選手。阪神は俊足の野手を獲得し、すぐにレギュラーとして抜擢することが多いのだ。
赤星は新人から5年連続で盗塁王、近本も2019、2020年と2年連続盗塁王を記録したが、今季は24盗塁。チームの後輩、中野に3連続を阻止された格好だ。
中野は史上最高タイの成功率、パは史上初の4人同時受賞
中野は30盗塁だったが、盗塁刺はわずか2で、盗塁成功率は.938。これは盗塁王としては史上1位タイの成功率だった。
ヤクルトの山田哲人は2016年、2回目のトリプルスリーを記録した年にNPBの盗塁王史上最高の盗塁成功率を記録したが、今年、中野がそれに並んだ。ちなみに、パ・リーグの最高記録は、日本ハムの西川遥輝が2018年に記録した.936。
パ・リーグは、ロッテの和田康士朗、西武の源田壮亮、日本ハムの西川遥輝、ロッテの荻野貴司の4人が24盗塁で揃って盗塁王になった。4人同時の盗塁王は、史上初めて。これまでは2人が最多で、過去6回あった。また、ロッテは和田、荻野の2人が盗塁王になったが、同一チームから2人盗塁王が出たのも史上初めてのことだ。
ただ24盗塁は、2リーグに分立した1950年以降では、1993年セ・リーグの緒方孝一(巨/24盗塁5盗刺)、石井琢朗(大洋/24盗塁16盗刺)と並び最少タイ。非常に低い水準だったと言える。
代走専門で初の盗塁王
パの盗塁王の一人、和田康士朗の打席数はわずか24で、今季96試合に出場しているが先発出場は2試合しかない。
スタメン出場は8月24日と10月9日の日本ハム戦だけで、盗塁は1度試みて失敗している。外野の守備固めに出て打順が回ってきて1盗塁、残りの23盗塁は代走で記録。まさに走り屋として盗塁を稼いでのタイトル獲得となった。代走専門で盗塁王のタイトルを取ったのは、今年の和田が史上初めてだ。
また、シーズン100打席未満で20盗塁以上を記録した選手は9人いるが、盗塁王になったのはこれも今年の和田が初めてとなった。
藤瀬史朗は70年代から80年代にかけて代走専門で活躍した外野手。実働7年で117盗塁28盗刺を記録しているが、一度も規定打席に到達せず。1975年大阪体育大からドラフト外で入団したが、新聞で見た入団テストを冷やかし半分で受けたところ、ずば抜けた俊足を評価されて入団が決まった。
このリストには和田がもう1度出ているほか、巨人の増田大輝、ソフトバンクの周東佑京と現役選手が3人顔を出している。3人に共通するのは、いずれも育成出身ということ。アマチュア時代は無名で、注目されることなく入団したが、ずば抜けた足の速さで支配下登録を勝ち取り「走りのスペシャリスト」として売り出したのだ。彼らは「走り屋」に甘んじることなく、ここからレギュラー選手、リードオフマンを目指している。
昨年、和田は23盗塁を記録して年俸は420万円から1000万円に跳ね上がった。今年は打席数が69から24へ大幅に減ったが、盗塁王のタイトルを獲得したことが評価され、800万円アップの1800万円で契約を更改した(金額は推定)。
最近のNPBでは「盗塁数は少ないが、盗塁成功率は高まる」傾向にある。セイバーメトリクスでは「盗塁は失敗したときのダメージが大きいので、成功率が低い選手は走るべきではない」とされているが、こうした考え方が浸透したからではないかと思われる。
盗塁の「価値観」が変動している印象があるが、来季はどんな数字になるだろうか。
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