先発、救援投手を同列に評価する指標「Pitching Run」
今季の沢村賞はオリックスの山本由伸に決まった。沢村賞の選考基準7項目のうち5項目をクリアし、選考委員の満場一致で決定した。山本は今季、最高の先発投手になった。
ただ、沢村賞の基準では規定投球回数未満の投手、特に救援投手の成績を先発投手と同列に比較することはできない。
同一リーグのすべての投手の防御率を基準に数値化した指標がある。PR(Pitching Run)だ。数式は{(チーム平均防御率―その投手の防御率)×その投手の投球回数}÷9という単純なものだが、リーグ防御率より良い防御率で長く投げた投手が上位に来る。
長く投げるという点では先発投手に有利だが、防御率が良ければ救援投手でも上位にランキングされることがある。
セ・リーグ1位は柳裕也、スアレスは4位、栗林良吏は6位
2021年の公式戦から両リーグのPR10傑を見ていこう。まずはセ・リーグ。今季のリーグ防御率は3.60だった。
セは防御率1位の中日・柳裕也がPRでも1位、そして防御率2位で最多勝の阪神・青柳晃洋が2位だが、3位には規定投球回数未達の阪神の先発・伊藤将司、4位は阪神のクローザーで最多セーブのスアレス、そして5位に中日のセットアッパー又吉克樹、6位に広島の新人クローザー栗林良吏と救援投手が並んでいる。
PRにするとこうした救援投手の貢献度の高さが浮き上がってくる。国内FA権を行使した又吉の争奪戦が報じられているが、又吉はリーグ屈指の貢献度があったことがこのランキングから見えてくる。
10傑では、今季わずか1勝6ホールドポイントの中日・藤嶋健人が8位に入っている。セーブやホールドのシチュエーションで投げることは少なかったが、与えられた出番できっちり仕事をしたことが分かる。来季はセットアッパーを任すべきではないか。
なおNPBのホールド記録を更新する「50ホールド(ホールドポイントは53)」をマークしたヤクルトの清水昇は、PR9.09で12位だった。
阪神の青柳とともに13勝で最多勝になった広島の九里亜蓮は防御率は3.81とリーグ防御率よりも悪かったためにPRは-3.50、123位だった。
上位10人は中日、阪神、広島のみと偏っている。
パ・リーグは山本由伸が断トツ、平良海馬は3位、佐々木千隼は5位
パ・リーグも見ていこう。リーグ防御率は3.48だった。
沢村賞受賞のオリックス・山本由伸のPRはセ1位の中日・柳の約1.7倍。今季の活躍がいかに「無双」だったかがわかる。
2位には規定投球回数未達のソフトバンク・マルティネス。3位はシーズン中にセットアッパーからクローザーに配置転換された西武の平良海馬、4位は山本由伸とともにオリックスの左のエースとして活躍した宮城大弥、5位にはロッテのセットアッパー佐々木千隼が入った。
最多セーブのロッテ・益田直也は8.88で9位。最多ホールドポイントの日本ハム・堀瑞輝は6.65で19位だった。
山本由伸は21世紀歴代6位
かつてのプロ野球は投高打低の時代が長く、しかも先発投手が圧倒的なイニング数を投げることが多かった。
1リーグ時代の1943年には巨人の藤本英雄が432.2回を投げて34勝11敗、歴代最高の防御率0.73を記録。リーグ防御率は2.60だったがPRは89.66に達した。
その後も60以上の高いPRを記録した投手は何人かいたが、投手の分業が進み、投球回数がリーグ最多でも200イニング前後となった21世紀以降で40以上のPRを記録したのは以下の13人だ。
2013年、24勝0敗という空前の記録を樹立した楽天の田中将大が54.23というダントツのPRを記録。以下、ダルビッシュ、前田健太、岩隈久志と続き、今年の山本由伸は6位ということになる。歴史的な快投と言えるだろう。山本より上の投手はすべてMLBに移籍している。
田中将大は2011年にも1.27という21世紀以降では最高の防御率を記録しているが、この年は統一球の導入によって投高打低となりリーグ防御率は2.95だった。そのためPRはそれほど上がらなかった。
PRは防御率に基づいた数値だが、失点しても試合を作ることができるなど、防御率は良くなくても貢献度が高い投手もいる。そうした投手を拾うことができないのはPRの欠点と言えるが、先発、救援の別なく投手成績を比較できるので「使える指標」の一つではないかと思う。
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