左の強打者多いパ・リーグで貴重な先発左腕
7勝を挙げてハーラー単独トップを走る楽天の黄金ルーキー・早川隆久。ピンチを招いても要所で抑えられる投球術や、多彩な変化球で打者を翻弄するなど、1年目とは思えない落ち着いたマウンドさばきを見せている。
近年パ・リーグでは先発左腕がタイトル争いに食い込むことがなく、ソフトバンク・千賀滉大、オリックス・山本由伸、楽天・涌井秀章ら右投手が大きな割合を占めていた。しかし、今季は早川以外にもオリックスの宮城大弥やロッテの鈴木昭汰らが台頭。クローザーに復帰した楽天の松井裕樹もセーブ数トップと、パ・リーグでも左腕の活躍が目立っている。
ソフトバンク・柳田悠岐や栗原陵矢、オリックス・吉田正尚、西武・森友哉、ロッテ・安田尚憲らパ・リーグには左の強打者が多い。自軍を見ると田中将大、則本昂大、涌井秀章、岸孝之と右腕が並ぶだけに、優勝を狙う上で左腕・早川の存在は貴重だ。
勝利を重ねられる要因は投球フォームにあり
早川が勝利を重ねられる要因は投球フォームにある。
まず上半身が右足着地まで開かないところだ。早川の場合は、投球モーションに入ってから右足が着地するまで胸が一塁方向に向いているため、ギリギリまで上半身の開きを抑えられている。体の開きが遅い分、下半身の体重移動の効果を最大限リリースで伝えることができるのだ。
2つめは骨盤が開かない点。上半身は下半身の開きに連動して開くため、上半身の開きを抑えるには骨盤も開かないことが重要となる。早川は右足を上げた後、お尻から先行して体重移動を開始するため、右足が着地するまで骨盤の開きを抑えられている。左足の内側で溜めたエネルギーを分散させることなく右足股関節に乗せるには、骨盤をギリギリまで開かないようにすることが重要なのだ。
3つめは左手の出どころが見にくい点。早川のフォームはボールの出どころが見にくく、打者からすると球速以上に速く感じるだろう。ソフトバンク・和田毅も球速はそこまで速くないものの、ボールの出どころが見にくいフォームで打者を翻弄している。
早川のMax155km/hのストレートは、打者からすると160km/hほどに感じるのではないだろうか。さらにツーシーム、カットボールのムービング系やカーブ、チェンジアップの緩急、縦に落ちるスライダーなど変化球が多彩。変化球待ちのところでストレートを投げ込まれると、打者はお手上げだ。
4つめは胸の張りが強い点。早川は投げる瞬間の胸の張りが強く、腕のしなりを効かすことができている。胸の張りが強い投手は腕のしなりを最大限使えるため、球威のあるボールを投げやすくなる。胸の張りが弱い投手は肩甲骨の可動域を最大限使えないため、ボールは打者の手元で失速しやすい。打者の手元で伸びるボールを投げるには、胸の張りも欠かせないのだ。
新人最多勝なら2013年のヤクルト・小川泰弘以来
早川は防御率3.15、負け数も2敗と少なく、オリックスの宮城や日本ハムの伊藤大海らと争う新人王も、現時点では最有力候補だろう。
楽天の投手で新人王に輝いたのは2007年の田中将大と2013年の則本昂大のみ。偉大な先輩が築いてきた系譜に名を連ねる資格は十分にある。
さらに新人王だけでなく、最多勝のタイトルも現実的な期待を持てる。最近では2013年にヤクルト・小川泰弘が16勝を挙げて最多勝、最高勝率、新人王に輝いた。
平成以降では野茂英雄が1990年に18勝、上原浩治が1999年に20勝、松坂大輔も高卒1年目ながら16勝を挙げるなど怪物ぶりを発揮した。早川にはそんな歴史的な記録が期待される。
仮に最多勝と新人王をダブル獲得すれば、もちろん球団史上初めての快挙。黄金ルーキーの今後にますます注目が集まる。
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