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技巧派に変貌した楽天・田中将大、実はリーグ1位相当の数値とは?

2021 6/4 06:00広尾晃
楽天の田中将大ⒸSPAIA
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ⒸSPAIA

2勝3敗では物足りない?

8年ぶりにNPB、楽天に復帰した田中将大の成績については、評価が半ばしているのではないだろうか。

開幕前に故障したために出遅れた田中だが、7試合に登板して2勝3敗ながら防御率は2.54。規定投球回数未達だが、パ・リーグ3位に相当する。また7試合中5試合でQS(先発で6回以上投げて自責点3以下、先発投手の最低限の責任)を記録。さすがの安定感ではある。

一方で、2014年から2019年までヤンキースで6年連続二桁勝利を記録したバリバリのメジャーリーガーにしては「物足りない」という評価もあろう。

田中将大という投手を評価する上で重要なポイントが2点ある。1つは「P/IP」、つまり1イニング当たりの投球数だ。プロ野球の投手コーチは「P/IP15=1イニング15球」という数字を気にしている。これを大きく上回る投手は長い回が投げられない。

3年目から1イニング当たりの投球数が減少

下の表は、田中将大の日米でのP/IPの数値の推移だ。順位は同一リーグの規定投球回数以上の投手での順位。

田中将大の年度成績とP/IP リーグ順位ⒸSPAIA


2006年夏の甲子園で、早実の斎藤佑樹(現日本ハム)との投げ合いで日本中を沸かせた田中はドラフト1位で楽天に入団。1年目から先発投手として第一線で投げた。当初は若さに任せて投げるスタイルでP/IPは16を超え、効率が良いとは言えなかった。しかし2009年を境にP/IPは急速に改善され、それとともに防御率などの数値も向上する。

この時期、パのP/IPは日本ハムの武田勝が1位になることが多かったが、2013年に初めて田中が1位になる。そしてこの年、24勝0敗という空前の大記録を残すのだ。翌年、MLBに移籍した田中はここでも先発投手として安定した成績を残す。P/IPもリーグ上位。効率的な投球はMLBでも通用したのだ。

ところが1年目の7月、田中は右ひじ靱帯の部分断裂が明らかになる。田中はトミー・ジョン手術を回避して、自身の血小板を患部に注入する「PRP療法」という温存療法を選択し、短期間で復帰した。以後、球団は田中の投球数を厳格に管理するようになった。田中は長いイニングを投げるためには、効率的な投球を心掛ける必要があったのだ。

2017年、田中の同僚アーロン・ジャッジが52本塁打を打って本塁打王、新人王を獲得する。いわゆる「フライボール革命」の幕開けだ。各打者は本塁打を狙って打球を打ち上げるようになる。これによって打撃戦が増えるとともに、三振も増えた。

この二つの変化は投手の球数を増大させた。田中のP/IPが増加したのはこうしたMLBの変化によるところが大きい。しかしそれでも田中のP/IPは相対的にはリーグ上位をキープした。NPBに復帰した今年も、田中は非常に少ない球数で投げている。安定感の源泉はここにあるといえよう。

鳴りを潜めた「ギアチェンジ」

田中のもう一つのポイントは「ギアチェンジ」だ。制球力良く効率的な投球ができる田中だが、ピンチになると150㎞/hを優に超す速球(多くはツーシーム)を相手の弱点にズバッと投げ込むことができる。この「ギアチェンジ」によって、田中はピンチを何度も切り抜けてきた。球速に加えて高回転の切れのあるボールを絶妙のゾーンに投げ込むことで、田中は圧倒的な数字を残してきたのだ。

しかしMLBに移籍して、右ひじ靱帯を損傷してからは「ギアチェンジ」は鳴りを潜めるようになった。投球強度の高い球を投げれば、右ひじ損傷のリスクが高くなる。年齢も加わって、田中は「技巧派」へと変貌していったのだ。

今年4月17日、日本ハム戦に今季初登板した田中は、1回2死一塁で中田翔を迎え154㎞/hの速球を投げ込んだが、中田はこれを易々と左中間スタンドに叩き込んだ。筆者は「ギアチェンジはもうないのだ」と思わざるを得なかった。

プロ入り16年、32歳になる田中将大は円熟味のある技巧派投手になろうとしている。NPBでさらなる進化を見せるのか、今後の進境にも注目したい。

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