227打席でわずか8三振、12本塁打
オリックス・吉田正尚の異能ぶりが話題になっている。彼は5月30日時点で227打席に立ちながら、わずか8三振。それでいて12本塁打。三振数より本塁打数が多いのは、規定打席以上では1989年、同じオリックスのブーマー・ウェルズ(40本塁打、37三振)以来だ。
吉田正尚は敦賀気比高、青山学院大を経て2015年ドラフト1位でオリックスに入団。1年目から10本塁打するなど活躍した。筆者が吉田に注目したのは、この年のオフ、台湾で行われたアジアウィンターリーグだった。
オールウェスタンの一員として出場した吉田は、54打数30安打6本塁打29打点、打率.556で主要タイトルを独占しMVPに。フルスイングする吉田の写真は台湾紙のトップを飾り、日本のスポーツ紙も小柄な強打者の登場に「門田博光の再来」と書き立てた。ただ、このころはフルスイングの代償としてそれなりに三振もした。
翌2017年、吉田は腰痛で64試合の出場にとどまった。オフに腰の手術をした吉田は2018年に初めて規定打席に到達、ここから目覚ましい成長を遂げる。それは「三振数」を目安に見ると、くっきりと浮かび上がってくる。
年々進化、2位以下をぶっちぎり
2018年以降の吉田の主要な打撃成績と、三振するまでにかかる打席数を示すPA/K、そのリーグ順位を並べたのが下の表だ。三振とPA/Kは少ない方から見た順位。
三振数がどんどん減少し、対照的に打率の順位は上昇している。これは吉田正尚の「進化」を象徴している。
2018年、初めて規定打席に達した吉田は打率.321でリーグ4位に。ただ三振数は74、規定打席以上29人で8番目の少なさ。「やや少ない」程度だった。
翌2019年、打率.322でリーグ2位。打席数は12増えたが三振は10個減り、リーグ5位の少なさに。そして四球は10個増えて三振よりも四球の方が多くなった。
2020年、吉田は開幕から好調を維持、7月末には打率.333となり、絶好調のソフトバンクの柳田悠岐を追撃していた。それ以上に注目されたのが三振数だ。この時点で163打席でわずか9三振。どこまで一桁三振をキープするかが注目された。8月8日のロッテ戦の第1打席で空振り三振をして、三振数は二桁に乗ったが、吉田は最終的には.350で初の首位打者に輝く。シーズン前、彼はファンに「打撃タイトル」を公約していたが、見事にその約束を果たした。
今年の吉田はさらに凄みを増している。227打席でわずか8三振。PA/Kは昨年の半分近い28.4。約28打席に1回しか三振していないのだ。2位はロッテ鈴木大地の12.2(232打席19三振)、セ・リーグの1位は阪神近本光司の10.9(208打席19三振)だから、吉田の数字はもはや異次元と言えるだろう。
ボールが止まって見える?
デビュー時から吉田正尚の最大の魅力は「フルスイング」だった。173㎝85㎏の小柄な体でバットを思い切り旋回し、ボールを遠くに飛ばしてきた。常識的には「フルスイング」の代償は「三振」ということになるのだが、吉田は誰よりも三振していない。
吉田は投球の軌道が見えていて、そこにベストのタイミングでバットを出すことができるのだろう。投手が外角にボールを集めているときは、バットの出をやや遅らせ、泳がせるようにしてスイングする。それでもボールが真芯に当たるのだ。5月15日の楽天戦、初対戦の田中将大の3打席目、左中間スタンドに運んだ一発は、吉田の進境を象徴していた。
春季キャンプでの打撃練習でも、吉田正尚はほとんど打ち損じがない。ほぼすべての球を芯に当てて鋭い打球にした。川上哲治ではないが「球が止まって見える」のではないだろうか?「三振しない」は確かにすごい記録だが、吉田はこの数字に拘泥することなく、さらなる「打撃の高み」を目指してほしい。
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