巨人・戸郷翔征は34打数ノーヒット
日本シリーズで巨人がソフトバンクに2年越しの「8タテ」をくらったことを受けて、セ・リーグのDH制導入に関する意見が飛び交っている。元々は昨オフに巨人・原辰徳監督が提言したもので、日本シリーズや交流戦でセ・リーグが苦戦しているのはDH制にも一因があるとしたのが発端だ。
投手が打席に立たないパ・リーグの投手は、当然ながら打者9人全員と真剣勝負を強いられるが、セ・リーグは投手の打順でひと息つけたり、前の打者を歩かせることで攻めやすくなる。それが結果的に個々のレベルアップを阻害し、積み重なった結果が現在のセとパの実力差になっているという訳だ。
確かにセ・リーグはトータルで3アウトを取ればいいので投手の前の打者の打席で走者二塁なら歩かせたり、四球でもよしとすることが多いが、DH制のパ・リーグは最短距離で3アウトを狙うため必然的に真っ向勝負が増える。セは投手がストライクゾーンで勝負しないため打者もボールを見極める必要があり、パのようにフルスイングする打者が育ちにくい側面はあるだろう。
では、セ・リーグの投手の打力はいかほどなのだろうか。2020年に30打数以上を記録した投手のランキングが下の表だ。
30打数以上の投手は12人いるが、最高打率は広島・遠藤淳志の.188。最下位は巨人・戸郷翔征で、実に34打数ノーヒットだった。相手投手からすれば1アウトが確定しているようなもので、DHの打者がいるパ・リーグに比べれば精神的な負担は軽いだろう。
金田正一は通算38本塁打、桑田真澄は通算打率.216
かつては打撃のいい投手は少なからずいた。400勝投手の金田正一は投手として最多の通算38本塁打を放っているし、PL学園時代に甲子園で史上2位タイの6本塁打を放った桑田真澄はプロでも通算打率.216、7本塁打をマークしている。米田哲也や堀内恒夫、江川卓らも打撃力があった。
しかし、最近は150キロ以上のスピードボールを投げる投手も珍しくなくなり、変化球の球種も増えるなど格段にレベルアップしている。その分、選手個々の役割が細分化され、いわゆる「スペシャリスト」が増えたため、投手の打撃を軽視する風潮になってはいないだろうか。
セ・リーグの来季DH制導入が見送られた以上、投手の打撃力向上は急務。特に打席に立つ機会の多い先発投手はバント練習だけでなく、打撃練習もきっちり行うべきだ。ひいては、それが自らを助けることにつながるのだから、対策を講じた方がプラスは大きいだろう。
日本シリーズでファンを白けさせないために
DH制の導入によって、レベルアップだけでなく、投手対打者のエキサイティングな勝負が増えるという声がある一方、野球は9人でするものであり、投手交代の妙や細かい駆け引きが失われるという見方もある。個人的にはセとパでそれぞれの特色があった方がいいのではないかと思う。
ただ、憂慮するのは、日本シリーズというプロ野球最高峰の舞台で、ファンを白けさせるような結果にならないかという点だ。仮に来年もセ・リーグの優勝チームが4連敗するようなことがあれば、野球人気の衰退につながりかねない。
投手の打力がアップしたからといってセパの実力差が簡単に埋まる訳ではない。だからといって手をこまねいている状況でもない。まずは「投手も9人目の野手」という原点に戻ることが重要ではないだろうか。
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