アレンジボール“こやシン”
2020年、涌井秀章がよみがえった。2019年は不振で長期の二軍調整を強いられるなど、6年ぶりに規定投球回到達を逃した右腕。楽天に移籍して迎えた昨年は、開幕8連勝を含む11勝をマークし、史上初となる3球団目での最多勝に輝いた。
2020年の涌井を語る上で外せないのが、“こやシン”だろう。春季キャンプで小山伸一郎投手コーチから伝授されたシンカーを、涌井がアレンジしたボールだ。シンカー自体は2019年も投げていたが、“こやシン”はそれよりも平均球速が2キロ強アップし、全投球の16%を占めるまでになった。
“こやシン”の特徴のひとつが、ゴロを打たせやすいことだ。昨年投じたシンカーは打球の6割以上がゴロになっており、チェンジアップとシュートの中間のような曲がり落ちていく変化に、打者が手こずっていた様子が伺える。また、リーグワースト3位の17本塁打を浴びた中で、シンカーでは1本も被弾していないのも、特筆すべき点だろう。
進化を続ける34歳
さらに、“こやシン”は直球にも好影響を与えた可能性がある。1球前に投じた球種別にストレートの奪空振り率を見ると、シンカーの数値が最も高い。すなわち、シンカーを投げた後のストレートは、より高い確率で空振りを奪っていたのだ。
涌井は“こやシン”について、「ストレートとそこまで変わらないスピードで打者に食い込む」「だから難しいと思う」と語っているが、まさしくシンカーとストレートを判別することの難しさが、このような結果を生んだのかもしれない。
シンカーとの相乗効果もあってか、ストレートの奪空振り率はトータルでも11.0%を記録。これは、リーグの先発投手では山本由伸(オリックス)に次ぐ高さで、涌井の16年に及ぶプロ生活でもキャリアハイの数値だった。涌井は2020年の活躍の要因に「ストレートが戻ってきた」ことを挙げているが、戻ってきたどころか、最も良い状態にあったと言っても過言ではない。
“こやシン”の他にも、ダルビッシュ有(シカゴ・カブス)や山岡泰輔(オリックス)に助言を求め、ピッチングに取り入れたという涌井。その旺盛な探求心なくして、この復活劇はなかったかもしれない。進化を続ける34歳は、これからも白星を積み重ねる。
※文章、表中の数字はすべて2020年シーズン終了時点
企画・監修:データスタジアム
執筆者:小石 龍史
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