BCリーグに期待の23歳現る
西岡剛、大松尚逸、マルコス・マテオら元NPB所属選手の参戦で、今年も話題に事欠かないルートインBCリーグ。昨秋のNPBドラフト会議でもDeNAのドラフト6位で知野直人、阪神のドラフト6位で湯浅京己が指名されるなど育成枠も含め計6名がNPBの扉を開いた。リーグの注目度はますます上がっている印象だ。
そんなBCリーグに、また一人、今後の成長が楽しみな選手が現れた。
新潟アルビレックス・ベースボール・クラブの小野竜世(おのりゅうせい)投手である。
大阪体育大学から入団して、今年2年目のシーズンを迎える23歳。ノーワインドアップの投球フォームから繰り出される最速146キロのストレートは、スピードガンの数値よりも速く感じさせ、相手打者が差し込まれるシーンを度々目にする。
3月26日、熊谷さくら運動公園で行われた武蔵ヒート・ベアーズとのオープン戦でも、そのストレートを中心に、同じ軌道から鋭く落ちる縦の変化球も駆使して相手打線を翻弄した。
初回は1番・加藤壮太、2番・山田茂人の二人から連続三振。その後も欲しいところで狙って空振りが獲れるピッチングを披露し、5回1安打無失点、5奪三振。キラリと光るものを感じさせた。

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父親は埼玉西武で現在、1軍ピッチングコーチを務めている小野和義さんだ。8歳年上の兄・雄輝さんも野球をしていたため、幼い頃から身の回りに野球がある環境で育った。
小野が2歳のときに父は現役を引退。プロ選手として活躍する父の姿は記憶にないが、それでも休日に相手をしてもらったキャッチボールなどで、投げたボールの質の違いを肌で感じ、現役時代の面影を感じることも出来た。
「当時はどうやったらこういう球が投げられるようになるんだろうといつも感じていましたね」
父はプロのコーチ業などで家を空けることが多く、野球談議に花を咲かせた思い出はあまり残っていない。それでも唯一記憶にあるのは、ある日のプロ野球中継で、「お前だったら、この場面、このバッターで、どんな配球をすると思う?」という、配球論を交わしたことだった。いつかそんな父に追い付き、追い越したい。幼心に感じていたと言う。
ノーワインドアップに手応え
高校時代は大阪府の初芝立命館高で、3年夏の大会で完封勝利も記録した。
その後、大阪体育大学に進学すると、3学年上に現千葉ロッテの酒居知史、1学年上に現東北楽天の菅原秀がいる環境で技を磨いた。
彼らにピッチングについて何か質問をするといつも親身になって答えを返してもらった思い出がある。卒業後、BC新潟に進んでからも、そうした交流は続いており、昨年のオフも菅原からアドバイスをもらったと小野は話す。
「まず、体が小さいと言われました。今、体重は75㎏ですが、85㎏までは増やしたいと思っています。『10割の力で投げているように見えて、10割のボールを投げていたら、そりゃ打たれるよ』とも言われました。なので今年は7割ぐらいの力で10割の球が行くように心がけています。今、その辺りのことで色々と試行錯誤している段階ですね」

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そんな中、確かな手応えも感じた。前述の武蔵とのオープン戦だ。この日、小野はこれまで続けてきたセットポジションの投球からノーワインドアップの投球に変えて自分の課題と向き合った。
「監督にも相談したら『オープン戦だからやってみようか』ってことだったので、今日、思い切ってやってみたんですけど、それが上手くハマった感じはしましたね。自分の中でも大きな収穫を得られたかなって感じています」
この日の最速は141キロと派手さはないが、そのストレートに相手打者が度々差し込まれるなどベース板を通る際の球の強さを感じさせた。
変化球も打者の手元でキュッと曲がってくるため、武蔵の打線もなかなか小野を捕らえることが出来ない。唯一打たれたヒットもインコース寄りのスライダーを、相手打者に上手くすくい上げられたものだった。ほぼ完璧な投球に試合後の小野の表情は明るかった。
「今まではセットだとコントロールがつきにくいというイメージがあったんです。それが今日はワインドアップで投げているうちにどんどん心の余裕も生まれて、セットのときよりもタイミングとかもしっくり来るところがありました。あとは今年の課題としてあげている、力を入れずにキレの良い球を投げるっていうのを、今後もずっと続けていけるかどうか。今日はその第一歩になったんじゃないかと思います」
目指す方向性にぶれはなし
BC新潟のチームメイトには今秋のドラフト会議で上位指名も期待される153キロ右腕の長谷川凌汰がいる。彼の存在はもちろん小野にとっても刺激になると言うが、そこに自分の目指す方向があるかと問われたら、彼は微かに笑みを浮かべながらこう言う。
「僕は長谷川のような150キロを出せるような体格ではないですし、今、自分が一番重要にしているのはボールのキレなんです。そこが光って見えなければ自分はピッチャーをやっている価値がないと思うくらい大切にしている部分です。このオフもそこを追及して取り組んできましたし、これからもそこにこだわっていきたい。そのためにも体はもっと大きくして行かなきゃいけないとは思っています」

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自分の目指す方向性にぶれはないようだ。そんな小野に、かつてNPBで活躍した父親の背中が見えるところまで来たかを訊いてみた。
「今日でだいぶ近付いたとは思うんですけど、まだまだ技術的にも足りないところばかりです。もし、今後NPBに行くとなっても、今のままではやっていけないというのはあるので、これからさらに球速も上げて、球質をもっともっと良くして、その目標に辿り着けたらと思っています」
そう語る姿に慢心の二文字は見当たらなかった。