違和感覚えた広島‐巨人の開幕戦
丸佳浩の打席に違和感を私は覚えた。私は今年のプロ野球開幕カード3戦目、広島‐巨人をマツダスタジアムで観戦していた。1、2戦目もテレビで観戦していたが、ファンはブーイングをせずに温かく迎えていた。そこに私は違和感を覚えてしまった。
それはなぜか?2008年の4月1日のことを思い出したからである。
その日は阪神戦で広島から阪神に移籍した新井貴浩がバッターボックスに立っていた。大ブーイングで、スタジアムは異様な雰囲気が漂っていた。
丸は2年連続MVP、新井は前年、28本塁打・102打点で日本代表の4番も打っていた。どちらもチームの顔であったのに、なぜこのような差があったのだろうか。
まず、チーム成績があるだろう。丸は3年連続でセ・リーグ優勝後にFAし、新井はBクラスが続く低迷期の真っただ中でFAをした。しかも、新井の場合は結果が出ない中でも、起用され続け、主力級の数字を残したのは2005年からである。
ファンがいいも悪いも自分たちが育てたという愛憎心が丸と新井の間で大きく違うのかもしれない。ただ、私はブーイングをしなかった理由として考えるのは、スタジアムの変化ではないかと考える。
旧広島市民球場のファン文化
新井が大ブーイングを受けた2008年のスタジアムは旧広島市民球場。ノスタルジーが残るこのスタジアムは移転することが決定していた。この旧広島市民球場の名物と言えば、広島弁の愛情あるきついヤジであった。プロ野球のOB何人かに聞いても、この球場のヤジはきつかったという。
ただ、そのヤジも愛情あるものや面白いものが多かった。それが広島のアイデンティティとして受け継がれ、独特のファン文化を形成していた。カープファンは選手の応援歌、ジェット風船などプロ野球の応援文化で初めて導入したものが多いイノベーターと言われている。
そう考えると、今のマツダスタジアムはすっかり雰囲気が変わった。スタジアム内は洗練され、多種多様なグッズや仕掛けがある。ファン層も女性や子どもが増えて明るい。そうした中で、ブーイングやヤジをすることは難しいし、似合わないのである。そもそもヤジを言う50代以上の男性ファンはテレビで観ることが多くなったのかもしれない。
ただ、旧広島市民球場のような、真剣にファンが自分たちの想いをぶつける文化が無くなったのは少し寂しい気もした。
ハーパーが受けた大ブーイング
だが、それに近い光景をアメリカで目撃する。それがMLBのスーパースター、ブライス・ハーパーの打席である。ハーパーは幼い頃から怪童と言われ、19歳の時にワシントン・ナショナルズでメジャーデビュー。その年に野手として史上最年少で新人王を獲得し、その後もMVPを獲得するなどの活躍をした。そして今年FAとなり、フィラデルフィア・フィリーズと13年総額3億3000万ドルで契約をした。
迎えた4月3日のワシントンでのナショナルズ戦、ハーパーの打席は怒号にも近い大ブーイングが起こった。ナショナルズの本拠地ナショナルズ・パークも2008年に開設した新しい球場で、ハーパーは何度も地区優勝へチームを導いている。だが、そこは旧広島市民球場のような異様な雰囲気が漂っていた。
スポーツのスタジアムはホーム&アウェーで本当に変化する。特にスター選手の期待や不満は色濃く出る。そういう意味では、この日米のスタジアムの雰囲気は全く違い、ファン文化も違うことがとてもよく分かる。
ちなみに、ブーイングを受けなかった丸の開幕戦はまさかの4三振で、開幕3連戦は1安打に抑え込まれ、冴えない表情だった。一方のハーパーは、4月3日の試合で、1ホームランを含む3安打で、鬼気迫る表情が印象的だった(補足だが、新井の4月1日は3打数2安打でチームの勝利に貢献している)。
このように選手ももちろんだが、スタジアムが創り出す雰囲気やファン文化はリアルのスポーツ観戦でしかできない。季節も観戦日和となっており、読者の皆さんもスタジアムでスポーツを楽しみながら、色々な視点で観戦してはどうだろうか。