コロナ対策で長居公園内の周回コースに変更
新型コロナの影響で、1月31日に開催される大阪国際女子マラソンが異例の大会になる。公園内をひたすら回る周回コース、女子単独レースに男子のペースメーカー、大幅な参加者の絞り込み……。苦肉の策で、新型コロナに立ち向かう。
コロナの感染者数が一向に減らず、開催が危ぶまれる中、大会側が大きな決断を下した。大阪のメインストリートである御堂筋、テレビ中継でアルフィーの曲が流れる大阪城公園内を走らず、レースを周回化したのだ。
マラソンを初めとするロードレースの開催の障壁となるのが、市民への感染対策の難しさだった。沿道での観戦については自粛を呼びかけるのが精いっぱいで、拘束力はない。そのため、沿道にはコロナ禍でもたくさんの人が集まる。新春の箱根駅伝を見ても、自粛呼びかけにあまり効果がなかったことがわかる。
そこで大阪国際は元々の発着点であるヤンマースタジアム長居があり、レースでも使う長居公園内だけを走るコースに変更した。周回化は沿道対策だけでない。警備員の人数を減らすことができる。スタッフの観戦対策はもちろん、コロナ対策の経費が膨らむ中、数千万の警備費を減らすこともできるのだ。
2.8キロを15周
ただ、大阪国際女子の周回化は選手にとって厳しいものとなっている。約2.8キロを15周。昨秋の箱根駅伝予選会では、自衛隊立川駐屯地内を約8周したが、今回は規模が違う。
長居公園内はフラットだから、条件がそろえば記録が出るのではないか、という意見もあるようだが、筆者は逆ではないかと思っている。
そう思うのは理由がある。かつて行われていた横浜国際女子マラソンで、3周の周回コースを実施したことがあったが、選手に不評だった。2009年の第1回大会を走ったアテネ五輪銀メダリストのキャサリン・ヌデレバ(ケニア)は「同じコースを走るのは面白くない。嫌いなポイントがあると、それが何度もくる」と不快感を示した。普段、大会側にリップサービスを欠かさないヌデレバにして、ここまで言わしめた。
横浜国際は3周だったが、大阪国際はその5倍でさらに公園内しか走らない。風景は変わらず、同じところをぐるぐると回るだけ。その精神的苦痛は推して知るべし、である。
集団の場合に周回遅れをどうやって抜くか
さらに、今回の周回化では困ったことがある。1周が2.8キロと短い上に、公園内の道路のため道幅が狭いことだ。
単純に先頭と2.8キロの差ができれば周回遅れになる。後ほど書くが、今回のペース設定は1キロ3分18秒。2.8キロの差ができるということはタイムにすれば約9分14秒になる。周回遅れが出ることは必至だ。となると、先頭や周回遅れの集団が大きな塊だった場合、どうやって周回遅れを抜くのかという問題が出てくる。
これは選手だけでなく、中継車にも当てはまる。今回がどのような中継になるのか、発表されていないが、これまでのように中継車を何台も走らせるのは無理ではないか。
関係者によると、周回化はかなり前から議論されていたようだが、公園内をぐるぐる回るのはテレビの映像的に面白くないことに加え、こういった中継車の問題もあり、大会直前までなかなか決まらなかったのが実情らしい。
女子のレースで男子の川内優輝がペースメーカーに
ただ、記録を狙う上で、大きなサポートがある。それが、男子マラソンで世界選手権代表にもなった川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)ら、男子選手がペースメーカーとして、レースを引っ張ることだ。
女子選手を男子が引っ張るのは、日本ではなじみがないかもしれないが、海外のレースではあることだ。
例えば2003年にロンドンマラソンでポーラ・ラドクリフ(英国)が当時の世界記録をマークした時も男子がペースメーカーだった。2005年のベルリンマラソンで野口みずきが日本記録を樹立したときも同様。
ただ、いずれも男女混合レースだったが、大阪国際は女子単独レース。女子のみの主要レースのペースメーカーを男子がするのは、極めて異例だ。ちなみに、今回の大阪国際で日本記録が出た場合は公認される。
ペース設定は野口みずきの日本記録を想定
川内をはじめとする男子選手がペースメーカーになることは女子選手にとってメリットが大きい。そもそも、女子のペースメーカーは力的に任せられる選手が少ない。さらに、力不足のため、ペースが安定しないこともあった。
それが、男子選手が引っ張るとなれば、一気に解消される。さらに、女子より体が大きい男子は向かい風の時に風よけにもなる。周回コースになっても、男子がペースメーカーになるメリットは変わらない。ペース設定は野口の持つ日本記録(2時間19分12秒)を想定しているという。
記録を出させるために男子をペースメーカーにしたのかと思われるかもしれないが、背景には新型コロナの影響がある。通常、女子のペースメーカーは海外選手に頼むことになるのだが、コロナ禍で海外選手が入国できない。そのため、男子に頼まざるを得なかった。記録が出れば「ケガの功名」ということになる。
前田穂南vs一山麻緒、五輪代表同士の争いに
さて、レースに目を向けよう。
出場者数は、これまた新型コロナ対策で参加資格を引き上げたこともあり、例年の500人から約100人に激減。しかしながら、招待選手にはともに東京五輪代表の前田穂南(天満屋)、一山麻緒(ワコール)が名を連ねる。
優勝争いはこの2人とみて間違いないだろう。真夏のMGCで独走した前田か、昨年の名古屋で日本選手の歴代国内最高タイムとなる2時間20分29秒をマークした一山か。いろんな意味で40回目の大阪国際は楽しみである。
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