パリ五輪出場へ世界ランキングの重み増す
今年最初のバレーボールの国際大会であるネーションズリーグが大詰めを迎えている。16チームのうち予選ラウンド上位8チームがファイナルラウンドに進み、女子はイタリアの優勝で幕を閉じた。女子日本代表は準々決勝でブラジルにセットカウント1-3で惜敗し、7位で大会を終えた。
20日には男子のファイナルラウンドが開幕する。男子日本代表は、予選ラウンド9勝3敗の5位で、初めてファイナルラウンドに進出。21日(日本時間22日1時)に準々決勝で東京五輪金メダルのフランスと対戦する。
2024年パリ五輪へのスタートとなる今大会、各国の代表監督は例年以上に選手起用に頭を悩ませながら戦っていた。FIVB(国際バレーボール連盟)が定める世界ランキングの算出方法が大幅に変更になったことに加え、パリ五輪の出場国決定までのプロセスで、これまで以上に世界ランキングが重要視されることが今年発表されたからだ。
2023年に開催されるパリ五輪予選では、開催国のフランスを除く世界ランキング上位24カ国(男子は2022年9月12日、女子は10月17日時点)が3組に分かれて総当たり戦を行い、各組の上位2カ国が出場権を獲得する。
この時点で五輪に出場する12カ国中(開催国を含む)7カ国が決定。残る5枠は、2024年のネーションズリーグ予選ラウンド終了時点の世界ランキングで、すでに出場権を獲得している7カ国を除く上位5カ国が獲得する(ただし23年の五輪予選で出場権を獲得した国がない大陸の国を優先する)。
世界ランキングを1つでも上げておかなければならないという意味で、パリ五輪の出場権を争う戦いはすでに始まっているのだ。
以前は、世界ランキングは大会ごとに、その最終順位によってポイントが加算され、更新されていた。しかし2020年2月から(実質的には2021年から)は大会中の1試合ごとに、勝敗やセット数によってポイントがプラス、またはマイナスされ、ランキングが更新されるシステムに変更された。
新戦力を試す場でもあったネーションズリーグ
毎年、五輪や世界選手権といった主要大会の前に開催されるネーションズリーグは、新戦力を試したり若手を育成する場という意味合いも大きかった。以前は予選ラウンドで若手選手にチャンスを与えながら戦い、いくつか敗戦を重ねたとしても、ファイナルラウンドに滑り込み、最終的に好結果を残せばポイントを得られた。
しかしシステム変更後は、予選ラウンドから毎試合がポイントの対象となる。特にランキング上位の国が格下のチームに敗れると大きなマイナスポイントとなってしまう。五輪翌年の今年は、本来なら新戦力を多く試したいところだが、毎試合変動するポイントがパリ五輪の出場権争いに直結するため、指揮官は頭を悩ませる。
世界ランキング1位を明け渡したブラジル
男子の予選ラウンド第3週大阪大会で、新たなシステムについて各国の監督に話を聞いたところ、フランス代表のアンドレア・ジャーニ監督は「いいと思う」と答えたが、どちらかというと困惑の声が多かった。
東京五輪で銅メダルを獲得したアルゼンチンのマルセロ・メンデス監督は、「アルゼンチンにとってはすごく大きな問題で、本当に悩ましいところ。今チームはちょうど転換期にあるので。若い選手をたくさん起用したいけれど、試合にも勝ちたい。若手選手の育成と、ポイントを得ること、その2つを一緒にやっていきたいが、それは本当に難しい」と語った。
アルゼンチンは予選ラウンド5勝7敗の9位でファイナルラウンド進出を逃した。世界ランキングは大会前の6位から7位にダウン。ランキングポイントは大きく下がっており、8位の日本とはわずか1ポイント差となっている。
今大会前まで世界ランキング1位だった男子のブラジルは、第1週のブラジル大会で、アウトサイドに経験の浅い選手を起用したが、アメリカや格下の中国に敗れ、2試合で31.50という大幅なマイナスポイントとなった。
第2週でポーランドに敗れ、2003年以来20年近く守り続けていた世界ランキング1位の座を、ポーランドに明け渡した。
ブラジル代表のレナン・ダルゾット監督は、「今までは大会ごとにポイントを獲得できたけれど、ランキングに関するルールが変わり、本当にどの試合も負けられなくなった。(ランキングの)トップにいても、それをキープすることが非常に難しくなっていて、今大会でも予想外のケースがいくつか出ている」と溜め息をつく。
「若い選手の育成を考えなければいけないが、(アウトサイドの)ルカレリ(リカルド・ソウザ)や(セッターの)ブルーノ(・レゼンデ)のような経験豊富な選手の力はどうしても必要。ベテラン選手の力を借りながら、若手の育成もやっていきたい」
アメリカ・スパロー監督の提案
アメリカのジョン・スパロー監督も、以前よりネーションズリーグの戦い方が難しくなったと言う。
「勝つことが重要ですが、1週間に4試合というハードスケジュールのため(選手を代えて)疲労もコントロールしなければならないし、若い選手にも機会を与えたい。すべての監督にとってチャレンジングな大会だと思う」と語り、こう提案した。
「このネーションズリーグに関しては、オリンピックサイクルの4年間のうち、最初の2年間は世界ランキングのポイントをカウントしなくていいのではないか。(オリンピックサイクルの)後半2年間、つまり来年以降はカウントすればいい。若い選手の成長のためには、私はそうしたほうがいいと感じます。ファンの皆さんも、次はどんな選手が出てくるのか、次世代を担うニュースターの姿を見たいんじゃないですか?」
それでもアメリカは、身長208cmの期待の若手2人、オポジットのジェーク・ハーンズ、ミドルブロッカーのタイラー・ミッチェムなどの若手選手を組み込みながら、10勝2敗の3位でファイナルラウンドに進出し、世界ランキングも大会前の7位から6位に上昇させている。
日本のブラン監督は「割り切り」でポイント重ねる
毎試合ランキングが変動する戦いは、見ているほうとしてはスリリングで面白さもあるが、ポイントの算出方法がわかりづらいことや、敗れた時のマイナスポイントが大きく、大会に出場したチームの世界ランキングが、出場していないチームより下がるケースがあることは疑問だ。
日本については、本来ならこの大会を経験させたかった有望な若手選手が、大学のカリキュラムや試合の関係で代表に招集できなかったという別の問題はあるが、このネーションズリーグをうまく戦っているチームの1つと言えるだろう。
予選ラウンドでの目標は、ファイナルラウンド進出と、日本よりランキングが下位のチームに絶対に勝つということだった。それを果たしただけでなく(対戦した時点で)日本よりランキングが上のイタリアやアルゼンチン、イランなどにも勝利する快進撃で、ランキングは11位から8位に浮上。イランを抜いてアジアトップに立った。
1週間に4試合という過密日程で、全試合をベストメンバーで戦うことが難しい中、日本のフィリップ・ブラン監督は、下位のチームやランキングが近いチームに対してはベストメンバーで臨み、上位チームの中でも特に力のあるフランス、アメリカに対しては主力を温存するという割り切った戦い方でポイントを重ねた。
一方で、そうしたトップレベルのチームに対して、ベストメンバーで臨んでこそ見えるものもあるはず。
第3週だけは、ファイナルラウンド進出が決まったこともあり、3戦目に対戦した下位のドイツに対し、それまで出場機会の少なかった選手で臨み勝利。最終戦で世界ランキング2位のブラジルに、ベストメンバーで挑んだ。
結果的にセットカウント0-3で敗れたが、主力で臨み、現時点での世界トップレベルとの差を感じられたことは大きな収穫だった。
オポジットの西田有志は「勝負所での1点2点を取ることができる力があるのがブラジル。でも対戦するたびに、だんだんと距離は近づいてきている」と前を向いた。
トーナメント形式で20日から行われるファイナルラウンドは、どのチームもベストの布陣でぶつかり合う一発勝負の舞台。その中でこそ見えるものがまたあるはずだ。
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