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卓球史上初の五輪金メダル!水谷隼・伊藤美誠組はなぜ頂点を取れたのか

2021 7/31 11:00福田由香
卓球混合ダブルスで金メダルを獲得した水谷隼と伊藤美誠,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ダブルスだからこそ取れた金

高く高くそびえ立ってきた中国の壁をついに打ち破った、卓球混合ダブルスの水谷隼・伊藤美誠組。準々決勝のドイツ戦では7点のビハインドを跳ね返した諦めない姿、決勝では中国に立ち向かっていく強気な姿に感動した人も多かったのではないだろうか。

実は、シングルスの実力では2人ともが格上のペアでも、ダブルスとして戦えば勝てるということは多い。ダブルスは1ゲームごとに誰に向かって打つのか、誰のボールを取るのかが変わるため、相性もゲームごとに変わる。

しかもお互いの手の内が見えづらい。例えば11-9で決着がついたとして、シングルスならばそれぞれが10本ずつサーブを出すことになるが、ダブルスだと4人のうち2人が6回、残り2人は4回しかサーブを出さない。このためシングルス以上に戦略が重要になるのだ。

諦めない水谷、だからこそ勝てた

ダブルスは“そのペア”で結果を出していなければ評価されない。そのため、思わぬところに強敵がいることがあり、2回戦のドイツはその典型だった。フランチスカの世界ランクは水谷より上、ソルヤはリオ五輪団体で伊藤から単複2勝をあげていたのだ。

3対3でフルゲームの場面。リードして折り返したいところがまさかの0-5で始まり、コートチェンジの後も流れは変えられず、気づけば2-9だった。

11点取れば決まる中でこれはもう勝負がついていると思う人がほとんどだが、伊藤が言う通り、「水谷さんだから勝てた」。水谷は相手女性が横回転をかけて流したボールをフォアで叩きつけるなど、土壇場で本領発揮。力強い攻撃で得点を重ねてデュースに持ち込んだ。

これだけでも諦めてはいけないと思わされた中、最後は伊藤がみせた。水谷から1本1本声をかけられて励まされた伊藤は、ゲームポイントを握ったところでまだ隠していた伸びるロングサーブを、ソルヤの左わき腹に刺さるようなコースに出したのだ。

ロングサーブは甘くなるとレシーブエースを狙われてしまう諸刃の剣。お互いへの信頼と、強気な姿勢が揃っているからこそ出せるサーブだった。サービスエースを決め、心身ともに苦しい試合を逆転でものにした伊藤は、重圧から解放された安堵からかベンチで涙を流した。

ひるまない伊藤、最後はやっぱりあのサーブ

決勝の中国・許昕は、世界最強のサウスポーで世界最強のペンホルダーだ。現在主流のシェークハンドと比べて手首が使いやすく、強い回転をかけたボールを出すことなどがやりやすい。中国を倒せたのは水谷が伊藤を生かし、伊藤がこの許昕のボールを狙い撃ちできたからだ。

試合序盤は伊藤が許のボールを取れない失点があったが、伊藤が前陣カウンターするようになると得点に変わった。決めにいったボールが返ってくると、パートナーが苦しい。壁や床にボールを投げつけた時に、強く叩きつけるほど強く跳ね返ってくるのと同じで、決定打が決まらないと強打が戻ってきてしまうのだ。

特に伊藤の場合は打点が早いのですぐに返ってきてしまい、対応が非常に難しい。決め球のボールを利用されてしまうと、安定感を落としても更に強く打つか、戦術を変えなければならない。


打点が遅いと考えて打つことができるが、相手にも時間を与える
打点が早いと、その分返ってくるのが早くなり対応が難しい
打点の早さによる違い


日本はこれを利用した。5ゲーム目、水谷が誘い球を送り伊藤が許のドライブをカウンター待ち。2連続で決まると、解説も「中国はショックですよ、許昕のボールは決定球ですからね」と唸った。世界選手権6大会連続メダリスト・劉詩雯は体制を崩しながらも何本かしのいだが、流れは完全に日本にきていた。

ここで日本がタイムアウトを取った時、伊藤はベンチで「許昕の方がびびってる、絶対びびってる!」と言い、田勢コーチは「こっちが挑戦者!」と背中を押した。

一方で“2つの世界最強”を持つ許には、重いプレッシャーがのしかかっていたのだろう。9-8で高いボールを上げて伊藤に叩きつけられるミスを犯すと、水谷のチキータも打ち損ねて2連続失点し、5ゲーム目を落とした。

最終ゲームも許は序盤から狙われ、気がつけば8-0。中国は強気なラリーなどで持ち直すも差が付きすぎていて、ネットインを機にゴールドメダルポイントとなる得点が日本に入る。

最後はやっぱり伊藤のロングサーブ。ネットに当たって落ちたのでドイツ戦とは逆の強い下回転だろう。擦り上げて打たなければいけないが、許は強打で落とした。共同通信によると、この瞬間の最高視聴率は40.5%(関東地区)だった。

どんな逆境でも最後まで諦めなければ結果が変わること、どんな強敵が相手でも全力で挑めば希望が見えること、どんなスターでも重圧に負けてしまうと力が発揮できないこと、力を合わせれば1人では出来ないことができること。卓球のダブルスにはそれが全て詰まっている。

《ライタープロフィール》
福田由香
NHK岡山キャスター、テレビ愛知アナウンサーを経て「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)で現場リポーターとして活動した経歴を持つ異色のライター。卓球初段。全日本社会人選手権、全国インカレ出場。学生時代は全国国公立大学卓球大会で数々の賞状を手にした。

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