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卓球男子シングルス代表、”未完の大器”張本智和と”トリックスター”丹羽孝希の持ち味とは?

2021 7/26 11:00福田由香
丹羽孝希と張本智和,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

シングルスのシード獲得で余裕を持って初戦へ

リオデジャネイロ五輪以降、男子の人気も高まった卓球。今回の東京五輪のシングルス代表枠は各国2つで、日本からは世界ランク4位の若きエース・張本智和と、トリックスターの異名を持つ同17位の丹羽孝希が出場する。

金メダルの最有力候補となる中国の代表は、世界ランク1位の樊振東と3位の馬龍。2位で世界最強のサウスポー・許昕は外れた。許昕はダブルスが得意なため、混合に専念させる狙いだろう。張本は樊振東と馬龍に次ぐ第3シード、丹羽もシード権を得たので、2人とも初戦は3回戦となった。これで初戦の相手については、前の試合を観て分析することができるため、余裕を持って初戦に臨めるだろう。

メダルの期待もかかる張本と丹羽。ここからは彼らがどのような選手なのか紹介していきたい。

世界4位でも未完の大器、張本智和

「チョレイ!」の雄叫びで知られる張本智和は、18歳の高校3年生。張本の影響か、「チョレイチョレイ」と言いながらピンポンをする子どもたちも増えたと感じる。

一躍有名になったのは3年前の全日本、中学2年生の14歳での大会史上最年少優勝だ。それまで男子の最年少優勝は水谷の17歳、女子も平野の16歳で、異次元の出来事だった。

決して組み合わせが良かったわけではない。準々決勝では大島祐哉、準決勝では森薗政崇と世界選手権ダブルス銀メダルの2人を破り、決勝ではレジェンド水谷隼の10回目の優勝を阻んだ。

この大会、張本はラリー中も台に近い前陣をキープし、先輩たちを下げて振り回した。早い打点を生かした両ハンドでレシーブから積極的に攻めるのはもちろん、緩急をつけたコース取りも良かった。若い選手だと苦手コースを狙いすぎて相手に読まれたり、つい熱くなって真っ向勝負を挑んでしまうことも多い。だが、張本はブロックでしのいだり相手を動かしたりと冷静な判断を見せた。

そして14歳で日本一となった少年は、3ヶ月後に世界1位の樊振東を撃破。5ヶ月後には五輪・世界選手権・W杯の全てでシングルス優勝の大満貫を達成した2人、馬龍と張継科までも倒すモンスターに成長した。この時まだ中学生というのが恐ろしかった。

しかしモンスターにも弱点があった。全日本の優勝はこの1回で、翌年から勝てなくなったのだ。元男子代表監督の宮﨑義仁さんは卓球メーカー・タマスのインタビューに「年上や格上の選手に対しては向かっていくことができる半面、負けられないプレッシャーを感じると受け身になってしまう。相手が誰であろうと向かっていくメンタルを身に付けることが必須」と答えていた。

その向かっていく姿勢が見られたのは、今年の全日本6回戦だろう。30代の実業団選手にゲームカウント2-3の10-11と、あと1点で敗退のところまで追い詰められた。相手の御内健太郎は、張本が苦手としてきたカットマンだった。

しかし、ここから張本は進化した姿を見せる。得点のたびに吠え、フルゲーム10-8と逆にマッチポイントを握った場面のレシーブでは、回り込みフォアで強気にぶち抜いたのだ。薄氷の勝利に飛び上がって喜んだ張本は試合後、「相手が向かって来るというよりも、自分が向かっていけている」と精神面の成長を口にした。

世界ランク4位とは言え、まだ高校生で五輪だって初めてだ。苦手もあるしプレッシャーも感じる。まだまだ未完の大器で、成長途中だからこそ面白い。それが張本智和の魅力だろう。

唯一無二のトリックスター、丹羽孝希

くるりと1回転しながら打球したり、背面打ちで決めたり、突然ラケットを持ち換えたりと、丹羽孝希は常人には理解不能なプレーを無表情で淡々と繰り出す。そのプレーは天才のものとしか言いようがない。

卓球動画などを観ていると「コキニワ」という単語が出てくる。これは外国人実況者が丹羽のファンタスティックなプレーを見て発したもので、大リーグでの「オオタニサン」のようなものだ。

五輪出場はロンドン、リオに続き3大会連続で、世界選手権でも2011年から連続で出場している。10年もの間日本代表をキープし続けているのは、現役選手では丹羽と水谷、そして女子の石川佳純の3人だけ。全日本では高校3年時に優勝して以来、決勝に進めていないが、リオ五輪と翌年の世界選手権ではいずれもベスト8に入っている。

丹羽といえばやはりカットブロック。この技術をとっさに出せるのは、世界でも彼だけだと言われている。強い前進回転で飛んでくるドライブに対し、ラケットを斜め下に「ちょん」と動かして逆回転をかける。ドライブが伸びて飛ぶのに対し、カットブロックは止まって落ちるので対応が難しい。

「カミソリ」や「稲妻」とも例えられる丹羽の卓球は、世界最速と言われる早いタイミングで他の選手ができないことをするため、一瞬何が起こったかわからない時がある。トリックスターが世界を惑わす瞬間は見逃せない。

《ライタープロフィール》
福田由香
NHK岡山キャスター、テレビ愛知アナウンサーを経て「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)で現場リポーターとして活動した経歴を持つ異色のライター。卓球初段。全日本社会人選手権、全国インカレ出場。学生時代は全国国公立大学卓球大会で数々の賞状を手にした。

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