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水谷隼と伊藤美誠は五輪新種目・混合ダブルスでいかに戦うか?特有の戦術を解説

2021 7/23 06:00福田由香
水谷隼と伊藤美誠,Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

男女平等の新種目、容赦も手加減も一切なし!

東京五輪で新たに加わった卓球の混合ダブルス。男女平等などの視点の下に増やされた種目の1つで、ルールは通常の卓球のダブルスと変わらない。テニスやバドミントンのダブルスと違って2人が必ず交互に打たなければならず、そこが戦略のポイントにもなる。

さて、ここまでを読んでこう思った方もいるのではないだろうか。「男が全力で打った球を女性が取らなければならないのか!?」と。答えはもちろん、「YES」だ。

同じ戦型でも男女で球質が違う?

男性と女性では、同じ戦型でも球質が違う場合が多い。最も一般的なシェーク裏裏ドライブ型(今回の日本代表は伊藤美誠以外全員このタイプ)でも、女性の方がツッツキと言われる台上カットを多用する選手が多いし、男性の方が台から離れてドライブを打つ選手が多い。

男女の違いが出る理由のうち、最も分かりやすいのは体格差だ。台から離れると守備範囲が広くなってしまうため、女性の場合、男性より台の近くに構える選手が多く、ボールを打つタイミングも早い。図で観るとわかりやすい。

卓球台


左側のコートの選手がバックに来たボールをクロスに長く打った場合、フォア前のボールを厳しく払った場合、ミドルからストレートに打った場合の3つを例にしてみた。ストレートの場合は変わらないが、残り2つは台から遠ざかるほど守備範囲が広がるのが分かる。

後陣で戦うカットマンに長身の選手が多いのも、背が高く手足が長ければ広い範囲をカバーしやすいからだ。立ち位置が違うとラリーでの展開も変わる。女性同士ならば早い打点で打ち合い、男性同士ならば体重を乗せたドライブの打ち合いになりやすい。

この男女差が混合ダブルスではどう生きるのか。男性の強みはやはりボールのパワーだ。重くて回転量があるため、女性が普段通り打つと威力に負けてボールが吹っ飛んでしまう。

逆に男性が女性のボールを打つと「伸びてこなくて打ちづらい」と感じる場合がある。女性の打球は男性にとっては軽く感じることが多く、ミスしたり相手にチャンスを与えることに繋がってしまう。

混合ダブルスは読めないからこそ面白い

混合の動きを具体的に見てみよう。今大会代表の水谷隼・伊藤美誠組と、2017世界選手権金メダルの吉村真晴・石川佳純組が対戦したとして、最も一般的な戦略を説明する。イメージしやすくするために4人の名前を出すが、この2組が必ずこの戦略を使う訳ではない。水谷のサーブ、石川のレシーブでスタートしたとする。

1ゲーム目
水谷→石川→伊藤→吉村→水谷→石川…

2ゲーム目
石川→水谷→吉村→伊藤→石川→水谷…

ゲームごとに打順が変わり、最終ゲームは一方が5点を取ったところで入れ替わる。水谷・伊藤組の場合、1ゲーム目の回りなら伊藤がチャンスを作り、水谷は石川に容赦なく強打すればいい。

2ゲーム目の回りでは、水谷は吉村に強打されない返球をし、伊藤は強打されても返すか、できれば石川を崩す。

吉村・石川組の場合、1ゲーム目は石川がチャンスを作り、吉村は水谷に強打させない。2ゲーム目は石川が水谷のミスを誘って吉村が伊藤に強打する流れだ。

吉村・石川組が金メダルを決めた世界選手権決勝の最終ゲーム。前半は石川がサーブレシーブでチャンスメイクし、吉村は相手女性が返せない強打で仕留めた。

5-1で折り返した後半は2人ともサーブレシーブで得点したほか、吉村が相手男性の厳しいコースを突いてチャンスを作り、浮いたボールを石川が叩きつける場面もあった。相手男性の強打を石川が取れない失点も2つあったが、11-6で奪い、ゲームカウント4-3で優勝した。

混合ダブルスは男女別のダブルス以上に結果が読めない。今回の代表ペアを倉嶋洋介男子代表監督は「伊藤の変幻自在のプレーと、水谷の安定性がペアとしてマッチし、高い安定感と爆発力を生み出す」と分析する。

現在は男性で表の攻撃選手はほとんど見かけないため、相手男性が伊藤のボールに苦しむ展開も多いだろう。しかも返した先には技巧派の水谷だ。五輪初の混合ダブルスがどうなるか。今から楽しみでならない。

《ライタープロフィール》
福田由香
NHK岡山キャスター、テレビ愛知アナウンサーを経て「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)で現場リポーターとして活動した経歴を持つ異色のライター。卓球初段。全日本社会人選手権、全国インカレ出場。学生時代は全国国公立大学卓球大会で数々の賞状を手にした。

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