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大相撲「付出制度」を解説、幕下10枚目格と15枚目格では大違い?

2022 2/20 06:00横尾誠
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幕下10枚目格、15枚目格、三段目最下位格デビューの3通り

大相撲の世界は入門前に実力があろうとも、一番下の格である序の口でデビューするが、アマチュア大会で実績を残した人は「付出制度」を利用し、幕下や三段目からデビューすることができる。

対象になる大会は以下の4つ。

①全日本相撲選手権
②学生相撲選手権
③実業団相撲選手権
④国体相撲競技(成年)

4大会のいずれかで優勝すれば幕下15枚目格。①に加え、その他3大会の1つ以上で優勝すれば幕下10枚目格。また、この4大会のいずれかでベスト8に進出すれば三段目最下位格でデビューする権利が得られる。権利を行使できるのは資格取得後1年間となっている(現在はコロナウイルス感染拡大を考慮し暫定的に2年間)。

ちなみにこの制度は2000年9月に制定され、2015年に三段目最下位格デビューできる制度が加わった。それ以前はある程度の目安はあったものの、明確な基準はなく、アマチュア相撲で実績を残した力士は幕下最下位格でデビューが慣例だった。

更に昭和30年代以前にもなれば、その実績に応じて都度異なっていた。当時はそこまで学生力士がいなかったからそれでよかったのだろう。

正代は資格失効で序の口デビュー

ただ、大相撲の世界においてアマチュア時代の実績通り出世した人もいれば、そうでない人もいる。当然その逆もある。

現役大関経験者で言えば、御嶽海は幕下10枚目格でデビューしているが、朝乃山は三段目最下位格デビュー。正代は大学2年の時に幕下15枚格デビューの資格を得たが、入門時は資格失効後だったため序の口からデビューしている(現行制度であれば三段目最下位格デビュー)。

現行制度下での付出デビュー力士と最高位


旧制度の時代の力士を現行制度に当てはめてみると、後の幕内久島海は高校3年時に全日本相撲選手権で優勝しており、この時点で幕下15枚目格。さらに大学1年時には全日本相撲選手権に加え、学生相撲選手権でも優勝しており大学1年時に幕下10枚目格の資格を得たことになる。

その他、朝潮、藤ノ川(服部)、琴光喜が現行制度であれば幕下10枚目格の資格を得ていた。また期間は短いが、元幕内の大翔山は12月の全日本相撲選手権で優勝し、翌年11月の学生相撲選手権で優勝しているため、現行制度なら、この直後に入門をしていれば幕下10枚目格でデビュー可能だ。

これが幕下15枚目格の資格となると人数は相当に増えてくる。4つの大会の中で1つの優勝で成し遂げられるのだから、幕下10枚目格と比べるとそのハードルは低い。従って、幕下15枚目格でデビューしても十両にも手が届かなかった力士も少なからずいる。

特に平成10年代はアマチュア横綱となった朝陽丸、学生横綱になった吐合、若圭将が幕下15枚目格でデビューしたものの十両に届かず引退した。

大学出身でも序の口デビューして力をつけた宇良や志摩ノ海

歴代の力士を現行制度に置き換えても、幕下10枚目格デビューできる資格を持っていた力士は大翔山含め7人と狭き門で、そのうちの3人が大関まで、全員が幕内まで昇進している。幕下15枚目格と5枚しか変わらないとはいえ、その実力にはかなりの差があるとも言えそうだ。

幕下15枚目格の資格を獲った力士を見ていくと、大相撲の世界に進まなかった人もいれば、大学卒業を優先するために1年間あった権利を喪失し、三段目最下位格や序の口でデビューした力士もいる。先述の正代や北勝富士は幕下15枚目格の資格を得ていたが大学を卒業し、入門時には権利取得後1年を経過していたので序の口でデビューした力士だ。

また、中には資格を取得できずに序の口から取る大学出身力士もいる。その中からも多くの幕内力士が誕生している。

宇良の出身校である関西学院大学は決して強豪校ではなく、大相撲入門後に力をつけた力士だ。志摩ノ海も近畿大学という強豪校出身ではあるが、大学時代の実績はあまりない。それでも幕内中位から上位の土俵を沸かせる強い力士となった。

1月場所幕内大学出身力士のアマ時代の実績とデビュー番付


つまり、学生時代に実績を残した人は出世できる可能性が高いが、出世が保証されているわけではなく、幕下15枚目格だと十両止まりも多いのが現実だ。

逆に学生時代に実績を残せなかったからと言って、それが大相撲入門後の将来を塞いでいるわけでもない。結局は大相撲の世界でどれだけ力を付けられるかにかかっていると言えそうだ。

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