「一門」の成り立ち
大相撲を見ていると、しばし「一門」という単語が出てくる。最近では日本相撲協会の理事選挙があったが(候補者と定員が同数だったため無投票)、そこでもよく目にした。し、元稀勢の里が二所ノ関を襲名し二所ノ関一門(通称、二所一門)の統帥に若くしてなったことも話題になった。では、この一門とはいったいどういうものなのだろうか。
一門という括りは江戸時代から存在しており、現在もその流れを汲んでいるが、実態は大きく異なる。かつての一門は相撲協会の傘下にある独立採算の企業体のようなもので、力士の給料は一門から支払われていた。
昭和32年に力士の月給制の導入、巡業が協会一括管理となる改革が行われ、一門の意義が変わってきた。だが、古くから人脈や師匠から弟子に継承されることで成り立ってきた一門という枠組みは残り、現在にもつながっている。現代では人脈から出来上がった派閥といっても差し支えないだろう。
現在、一門は5つある。出羽海一門、二所ノ関一門、時津風一門、高砂一門、伊勢ケ濱一門だ。かつては無所属も認められたが、今は必ずどこかの一門に所属することが義務付けられており、すべての部屋はこの5つのどこかに所属している。
大相撲の本流・出羽海、戦後急拡大した二所ノ関
出羽海一門は大相撲の本流的な存在。古くは大正時代に横綱の栃木山が独立し、春日野部屋以外は「分家独立を許さず」という掟がある。実際、昭和42年に独立を目論んだ横綱千代の山の九重親方(当時)が破門されている(それにより高砂一門に加入することになった)。
近年、一門からは豪栄道、栃ノ心といった大関を生み出しているが、本家の出羽海部屋から昭和51年以来46年ぶりの新大関・御嶽海が誕生した。御嶽海には名門復活も期待される歴史ある一門だ。
二所ノ関一門は戦後急速に勢力を拡大した一門だ。かつては部屋の立地から両国系と阿佐ヶ谷系と二系統に分類されていた。両国系は本家の二所ノ関部屋の流れで、大鵬や琴櫻といった横綱を輩出。阿佐ヶ谷系は初代若乃花をはじめ、その弟子の2代目若乃花、隆の里といった横綱や大関の貴ノ花を生み出した。隆の里は稀勢の里を育て、貴ノ花は3代目若乃花や横綱貴乃花を育てた。両国系、阿佐ヶ谷系合わせて、どの時代でも看板力士を輩出している一門だ。
だが、積極的に分家、独立で勢力を伸ばしたゆえ、結束は弱いとされ、しばし内乱が起こっている。昭和50年に押尾川騒動と言われる内乱が起こり、天龍が引退し全日本プロレスに入門。平成22年には貴乃花親方が一門の方針に反し、一門を離脱する通称「貴の乱」が起こるなど人気、実力力士も多い反面、内乱も多い一門だ。若くしてこの一門の統帥となった稀勢の里が、二所ノ関部屋をどうまとめ上げるか注目だ。
時津風一門は双葉山を祖とする双葉山道場が源流。双葉山が引退して双葉山道場を時津風部屋と名称を改めると、そこに伊勢海部屋と井筒部屋が合流し、三系統の一門となった。一門を大きく拡大させたのは双葉山の弟子の初代豊山だ。東農大出身の豊山は母校の強豪力士を数多く育て上げた。大関正代も東農大出身であり、初代豊山以来の時津風部屋からの大関。正代には戦後初の時津風部屋からの横綱が期待される。
最古の高砂、最新の伊勢ケ濱
高砂一門は最も古い一門であるが、現在は高砂部屋含め4部屋しか属していない。本家高砂から独立した錦戸部屋と、出羽海一門を破門され受け入れた九重部屋とその分家である八角部屋だけだ。近年では本家高砂部屋から横綱朝青龍や大関朝乃山を生み出し、九重系も横綱千代の富士、大関千代大海を生み出しているが先細りしているのが現状だ。
九重部屋で育った北勝海の八角理事長は高砂一門。古くは横綱前田山が休場届を出して日米野球を観戦し引退勧告、横綱朝青龍の引退の引き金となった暴力事件、朝乃山のガイドライン違反による長期謹慎など看板力士の不祥事も目立つ部屋であり、一門の再興が待たれるところだ。
最後に伊勢ケ濱一門だが、こちらは2012年にできた最も新しい一門だ。そんな中でも、現役唯一の横綱である照ノ富士を抱え、白鵬がいた宮城野部屋も伊勢ケ濱一門に属している。部屋の独立や閉鎖で系譜も複雑であり、伊勢ケ濱一門創設前の繋がりは薄い。ただ、後継者となれる人材も多いため、長く一門を組織することができるか興味深いところだ。
近年は高卒、大卒力士も増えてきており、一門を超えて学閥で力士同士が接することもあるが、基本的には一門で協力し合って部屋を運営していく仕組みは昔も今も変わらない。伝統ある一門、新興一門、その中には栄枯盛衰もあるが、大相撲の世界においては部屋を家族というのであれば、一門は親族といえる存在だ。
大相撲を見る際にはどの部屋がどの一門に属しているのかというのを気にして見てみると、また違った見方ができるのではないだろうか。
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