歴代1位の20人抜きはダニエル、2位は17人の村沢明伸
正月の風物詩と呼ばれ、2022年1月2日~3日に第98回大会を迎える東京箱根間往復大学駅伝(箱根駅伝)はこれまで数々のドラマや伝説を生んできた。1人のランナーが次々と並み居るライバルたちを抜き去る「ごぼう抜き」も魅力の一つで、歴代ランキングを振り返ると、歴史に残る名勝負がよみがえる。
鮮烈な印象を残す驚異的な走りで歴代トップの「20人抜き」を演じたのが、日大3年のケニア人留学生、ギタウ・ダニエル。2009年1月2日、各校のエース級が集った「花の2区」。ブービーの22位でたすきを受けると、ストライドの大きな走りで2位まで押し上げ「ごぼう抜き記録の20人と聞いて驚いた。満足している」と笑顔でコメントした。前年に同じ2区で自らがつくった15人抜きの最多タイ記録を大幅に塗り替えた。
その2年後の2011年1月3日、同じくエースが集う「花の2区」で歴代2位となる日本人最多の「17人抜き」を達成したのが東海大の2年生エース村沢明伸だ。
長野・佐久長聖時代に全国高校駅伝で優勝し、前回の箱根でも2区で10人抜き。学生陸上界のホープは1区最下位の20位でタスキを受けると、序盤の6キロで16人抜きを演じ、その後も明大の鎧坂哲哉、拓大のマイナら各大学のエースを振り切り、チームの往路3位に大きく貢献している。
前回の2021年1月2日は東京国際大2年でケニア人留学生のビンセント・イエゴンが花の2区で1時間5分49秒の区間新記録を樹立。オープン参加の関東学生連合を含む14人をごぼう抜きし、外国人留学生として初めて大会MVPの金栗四三杯にも選ばれた。
山上りの5区で今井正人が11人抜きの快走
箱根の「ごぼう抜き」歴代記録は、その多くがエース区間の「花の2区」で達成されることが多い。2区はレース序盤の区間のため、1区からの流れでその集団を追い越すことで数字が大きく更新され、歴代ランキングでも上位はほとんど2区で記録されている。
そんな中、第81回の2005年大会で「山の神」と称された順大2年の今井正人は山上り区間の5区で驚異的な走りを見せた。15番目でたすきを受けると、軽やかに箱根の山を駆け上がり、11人のごぼう抜きで従来の記録を2分以上も縮める区間新。本人も驚く1時間9分12秒の区間新記録(当時)で従来の記録を2分以上も縮め、チームを4位に押し上げた。
中学時代は野球部。福島・原町高で本格的に陸上を始めた「山のスペシャリスト」は箱根の歴史に衝撃を残した一人であることは間違いない。
「新・山の神」柏原竜二は1年で8人抜き
「山の神」と言えば、2009年1月2日に現れた東洋大のスーパールーキー、柏原竜二の走りも鮮烈だった。トップと約5分差の9位でタスキを受け、8人をごぼう抜き。1時間17分18秒の区間新を樹立し、出場67回目のチームを初の往路優勝に導いた。
高校時代はインターハイも高校駅伝も出場なしの無名に近い存在だったが、4年まで5区で4年連続区間賞。「天下の険」に登場した新たな「怪物」は1974年から4度制して「山のスペシャリスト」と呼ばれた大久保初男(大東大)以来2人目の快挙を達成した。
佐藤悠基や宇賀地強、出岐雄大らもランク入り
箱根路を沸かせたスター選手を振り返ると、東海大のエース佐藤悠基は2009年に3区で13人抜きを演じる力走。最後を締めくくる4年生の集大成を見せた。
駒大の宇賀地強は同じ2009年に3年連続の2区を任されて11人抜きと意地の快走。青学大の出岐雄大は2区で2011年に11人抜き、2012年にも9人抜きの爆発力を発揮し、2区の新たなヒーローとなっている。
参加校数増加も「ごぼう抜き」後押し
箱根駅伝の「ごぼう抜き」伝説は参加校数の増加も後押ししている。2003年の第79回大会から参加校が5増の20チームに増加し、順大の中川拓郎が「花の2区」で15人を抜いて「ごぼう抜き新記録」を達成。1974年の第50回大会の2区で、東農大の服部誠が記録した「12人抜き」を、29大会ぶりに塗り替える快走を見せた。
ちなみに服部の12人抜きも、第50回の記念大会で参加校は通常の15ではなく20だった。さまざまな条件が重なり、箱根の歴史に刻まれる「ごぼう抜き記録」も達成されているといえるだろう。
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