5度目の挑戦で悲願達成、起源は英国ロンドン
2028年ロサンゼルス五輪の追加競技として世界185カ国以上で親しまれるテニスに似たラケット競技「スカッシュ」の採用が正式に決まった。戦略性が高く「3次元のビリヤード」とも言われており、競技人口は約2000万人とされ、五輪で初の実施となる。
世界スカッシュ連盟によると、起源は英国ロンドンで19世紀から発展してきた。前後左右の4面を壁で囲まれた室内コートの中で、黒い小さなゴムボールを交互に打ち合うのが基本で、テニスのようなラケットで壁に向かって球をたたきつぶす(スカッシュ)ことから競技名となったという。
2023年のアカデミー賞で映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」に出演してアジア人初の主演女優賞に輝いたミシェル・ヨーさん(マレーシア)もスカッシュで国内ジュニア女王の実績があり、何の因果か10月に国際オリンピック委員会(IOC)の新委員に選出された。
子供から年配者まで「生涯スポーツ」として続けられるとしており、研究者の間では「世界一健康的なスポーツ」とも評されている。短時間で十分な運動効果が得られることを踏まえ、時間がない忙しい現代人に向いているスポーツともされる。
2012年ロンドン五輪を皮切りに、2016年リオデジャネイロ五輪、2021年東京五輪、2024年パリ五輪では候補に挙がりながら落選し、5度目の挑戦で悲願達成。五輪入りに向けてラリーポイント制を導入したのをはじめ、ガラス張りのコートで観客から見やすくするなど改革を重ね、かつてはIOCに落選の経緯説明を要求した時期もあったが、ようやく五輪デビューする運びになった。
ボールは時速200キロ、変幻自在の3次元ビリヤード
競技の基本ルールは4面の壁と床に囲まれたスペース(9.75メートルの長さと6.40メートルの幅の約18坪)で、ラケットを使って2人(ダブルスは4人)で交互に球を打ち合う。
ボールのスピードは最速で時速200キロに達し、ノーバウンドかワンバウンドで正面の壁に打ち返すのが基本。この際、サイドの壁やバックの壁に当てて正面の壁に返したボールも有効となる。2バウンドは無効となり、正面の壁に1度は当てる必要がある。
壁を使うのでボールがどこから飛んでくるか分からず、変幻自在で躍動感にあふれるスポーツで3次元のビリヤードと言われる所以でもある。
1ゲームは11点先取で、1試合5ゲームマッチで3ゲーム先取。10オールになるとタイブレークといい、2点差がついた時点でゲームオーバーとなる。
女子の渡辺は杭州アジア大会で史上初の銅メダル、男子の机も期待の星
日本協会によると、国内では300近いコートで愛好者は約30万人といわれる。かつて高円宮憲仁親王が好んでいたスポーツの一つでもあった。
近年はトップ選手の強化も進んでおり、2023年9~10月の杭州アジア大会では女子シングルスで24歳の渡辺聡美が日本勢初の銅メダルに輝いた。現在は英国の大学に通っている。スピードとパワーを兼ね備え、全日本選手権5連覇で世界ジュニア選手権3位、全英大学選手権優勝の実績もある。
世界ランキングはエジプト勢が上位を独占するが、世界ランク17位につけており、今後のさらなる飛躍が期待される存在。ドライブ主体の杉本梨沙、この競技を長年けん引してきたベテラン松井千夏も健在だ。
男子はスカッシュ最年少全日本王者で7度優勝を誇る26歳のエース机龍之介が期待の星。ストレートとドロップを使い分ける二刀流の遠藤共峻らもトップ選手でしのぎを削る。黎明期から活動し、国内大会9年間無敗の記録を樹立した坂本聖二の名も「スカッシュの神様」として知られている。
男子テニスの名選手、ロジャー・フェデラー(スイス)も長年スカッシュを支援してきた。英連邦諸国でも人気は高く、五輪競技入りで日本でも一気に関心が高まりそうだ。
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